英国の新たな気候変動対策、大気中のCO2を吸収する実験開始
英国は、今年5月に大気中の二酸化炭素を木や泥炭、岩石片、木炭などを用いて吸収する実験を始めました。
英国研究開発機構(UK Research and Innovation)による今回のプロジェクトは、100ヘクタール以上の土地を対象に、効果的に低コストで二酸化炭素吸収を行う方法を検証します。
これは、4,250万ドルを投じた大規模なプロジェクトになります。
この実験の背景にあるのは、カーボンオフセットの概念です。
英国の公式気候変動顧問は、英国がネット・ゼロを達成するためには、2050年までに年間約1億トンの二酸化炭素を除去する必要があると見積もっています。しかし、航空や農業などの活動からの排出を2050年までにすべて停止することは困難でしょう。そのため、排出した分を吸収する活動は必須です。このように、排出量を吸収活動によって埋め合わせることをカーボンオフセットと言います。
ただし、ここで重要なのは、削減活動を同時に行わなければネットゼロはあり得ないということです。削減活動を行いながら、削減し切れない分の排出量を吸収するというのがカーボンオフセットの基本的な考え方になります。
実験の内容は?植林やエネルギー作物に期待
それでは、実際にどのような実験が行われているのでしょうか。取組の一部をご紹介します。
大規模な植樹
エクセター大学のIan Bateman教授は、「植樹は、大気中の二酸化炭素を除去する最も費用対効果の高い方法であると同時に、生物多様性の向上や健康増進などの効果をもたらします。」と述べています。
しかし、泥炭地に木を植えると炭素が放出されるなど、適切な木を適切な場所に植えなければ反対に気候変動を加速させる恐れがあります。そのため、この実験の目的は、植樹の最も適切でかつ害の無い方法の検証です。この実験では、ドローンによる調査が行われ、土壌中の炭素蓄積量もチェックされます。
バイオエネルギー作物
国防省やナショナル・トラストの土地を含む英国全土で、木を用いて炭素を吸収するための最適な方法を検証する実験が行われます。
最新の実験は、ヤナギやミスカンサスなどの、バイオ燃料の原料として栽培される作物(エネルギー作物)の炭素除去能力を測定するというものです。これらの作物はエネルギーとして燃焼され、排出されたCO2は地下に封じ込められることになります。このCO2を地下などに閉じ込める技術は、CCS((Carbon dioxide Capture and Storage))と呼ばれCO2除去に大きく貢献するとして有望です。
泥炭地の復元
泥炭は損傷すると二酸化炭素を排出するため、破損された泥炭地は土地からの最大の二酸化炭素排出源です。そこで、排水を妨げ水位を上げることで、これを元に戻す実験が開始されました。
復元された泥炭地は、10トンのCO2/ha/年を吸収するとともに、約30トンのCO2/ha/年の損失を防ぐことができます。さらに、再生された泥炭地は野生生物保護・洪水防止・水質向上にも貢献するのです。
最新のテクノロジーを用いて、今日から始めるネットゼロ
気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)は、2050年までに排出量の削減と年間数十億トンのCO2除去の両方を行わなければ、世界の気温上昇を国際的な目標値である1.5度に抑えることはできないと結論づけています。
厳しい目標ではありますが、今回の実験によって光が差し込んだと言えるでしょう。
Bateman教授は一連の活動についてこう話します。
「この活動は、土地と植物があれば今すぐにでも始められます。2050年までのネットゼロという目標に向けて、すぐにでも変化を起こせる大きな可能性があるのです。」
ドローンやCCSなど、最新のテクノロジーによって大規模な二酸化炭素吸収を目指す英国のプロジェクト、今後の動向に注目しなければなりません。
参考記事:Trials to suck carbon dioxide from the air to start across the UK | Grist