環境に対する非政府アクターの声を、政府に、世界に【JCIインタビュー】
日本を代表する気候変動イニシアティブであるJapan Climate Initiative(以下JCI)は、企業や自治体などさまざまな非政府アクターの意見交換や情報発信の場として2018年7月に設立しました。2015年に採択された「パリ協定」を受け、WWFジャパン(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)、CDPジャパン(Carbon Disclosure Project)、自然エネルギー財団の3団体がJCI事務局を担っており、積極的にパリ協定を実現させようと活動しています。
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今回はJCI事務局団体の1つであるWWFジャパン 気候・エネルギーグループの田中健さんにお越しいただき、JCIの活動内容や強み、また課題や今後の取り組みなどについてお聞きしました。
田中健
福岡県庁、経済産業省で廃棄物管理やリサイクル推進などの環境保全行政、日本のリサイクル企業の海外ビジネス展開支援に従事。その後、日本科学未来館にて科学コミュニケーターとして、国内外の科学館、企業、研究機関などと連携し、科学技術や研究者と一般市民をつなぐさまざまなプロジェクトを担当。2018年8月から現職。気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative:JCI)など、企業や自治体など非国家アクターの気候変動対策の強化に取り組む。九州大学理学府分子科学専攻にて修士課程(理学)修了。
政府だけ、企業や自治体だけ、では気候変動は止められない
ーー本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、JCIの設立に至った背景や経緯についてお伺いできればと思います。2022年7月で4周年を迎えられましたが、4年前どのような背景、経緯で設立されたのでしょうか?
ーー本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、JCIの設立に至った背景や経緯についてお伺いできればと思います。2022年7月で4周年を迎えられましたが、4年前どのような背景、経緯で設立されたのでしょうか?
田中:こちらこそありがとうございます。JCIが立ち上がったのは2018年7月ですが、この半年ほど前にJCI代表の末吉と、現在運営をおこなっている事務局団体の数名の立ち話から始まったそうです。そこから各運営団体をリードする方々が趣旨に賛同して集まり、実現していったと伺っています。
こういった団体を立ち上げた背景としては、大きく分けて3つの理由があります。
- パリ協定の目標実現に向け、高まる非政府アクターの役割に応える
- 日本の非政府アクターにとって公平な土俵を築く
- 非政府アクターの声を日本政府に届ける
ーーなるほど。非政府アクターがキーとなっているのですね。ではなぜ、そんなにも非政府アクターが重要視されているのでしょうか。
田中:政府が道筋やレギュレーションを決めていくということは、いろいろなステークホルダーを動かしていく上でもちろん欠かせないことです。しかし、実際に脱炭素を進める十分な政策があったとして、それを実行していくのは「非政府アクター」です。そのため、政府だけでは気候変動対策は進みませんし、企業や自治体だけでも進みません。あらゆるステークホルダーが一緒になって活動していくことが、必要だと考えています。
ワークショップや政府との対談を通してJCIが実現したいこと
ーー政府と非政府アクターがともに取り組む必要があるということですね。続いては、環境団体としての取り組みの概要について、具体的な活動内容や、活動の意義を教えてください。
田中:JCIには、大きく2つ活動の柱があります。
1つ目は、気候変動対策をリードするメンバーの取り組みを外部に発信し、また国内外の情報をメンバーに提供することを通じてメンバーの取り組みのレベルアップを後押しすることです。この柱に沿ってメンバー交流ワークショップや政策ウェビナー、年一回の気候変動アクション日本サミットなど、さまざまな活動をしています。
2つ目は、非政府アクターの声をきちんと政府に届ける取り組みです。排出削減や再エネ導入の政府目標の引き上げなどを求めるメッセージを文章にした上で、賛同したJCIメンバーの団体名を載せて公表し、政府に届けています。それに加え、政府のキーパーソンとJCIメンバーで対談をすることもあります。
私たちWWFを含むNGOが、団体の主張を発信することは当たり前です。JCIがメッセージを発信することの意義は、こうした声を自ら上げる機会の少ない企業や自治体などが名を連ねて共に主張していけることにあると捉えています。JCIとして主張すべきと考えることをメッセージにし、そこに賛同する多くのメンバーの声として発信する。その組み立て方について、JCIを運営する私たちも試行錯誤しながら挑戦しています
いかに政府にとってインパクトのある非政府アクターの声を届けていくか、これはJCIにとって非常に重要な課題であり、チャレンジであり、使命です。
マルチなセクターが協働しているという強み
ーーJCIには企業だけでなく自治体も参加していますが、異なるセクターが協働することの意義についてどのようにお考えでしょうか。
田中:JCIの大きな特徴は、マルチなセクターが集まっていることです。参加団体の多くを占める企業にフォーカスした取り組みが見えがちですが、自治体やNGO、NPO、宗教団体なども多く参加しています。その中で「企業だけではできないこと、自治体だけではできないこと、でもNPOだったらこんな知見がある」といった情報共有をもっと促進していきたいと思っています。
実際にメンバー交流ワークショップに参加した企業の方も、異なるセクター、分野の組織が参加していたから新たな学びがあった、知らなかったことがたくさんあった、とおっしゃっていました。このように、一団体ではできること・できないことを共有できる場があるということが、JCIの大きな意義・強みだと考えています。
真の脱炭素に向かうネットワークになるために
ーーなるほど。そのような意義・強みを持つJCIとして活動していく中で、課題として捉えている部分はありますか。
田中:JCIに限らず、ネットゼロにコミットする企業や自治体が増えてきました。そこで、そのコミットメントや取り組みは適切か、いわゆる「グリーンウォッシュ」にならない真に脱炭素に向かう取り組みとは何かについては、JCIでもきちんと力を入れて注視していかなければいけないと感じています。
実はJCIは、昨年の6月に新たに参加要件を設定しました。JCIのメンバーの取り組みをパリ協定が目指す1.5度目標に沿った、信頼できるものにしなければならないためです。
いかにJCIを進化させていくのか、そしていかにメンバーの取り組みの質を1.5度目標に近づけていくのか、といったところが今後の課題として挙げられます。
日本企業の環境経営を引っ張るリーダーの育成を目指して
ーーJCIはこれからどのような団体になっていきたいと考えていますか。
田中:まず1つ目の目指したい方向性として、「声を上げていく」ことが挙げられます。いろいろな企業・セクターの声を政府に届けていくことが、脱炭素社会を実現する上では必要不可欠です。
今年6月に発表した再生可能エネルギーの導入加速を求める政府へのメッセージには300近いメンバーが賛同し、名前を連ねています。その中でも、特にリーダーシップを取って自ら声を上げてくれるような、メンバーの中の「リーダー」が現れると、より力強い声を届けることができるようになると感じています。
2つ目は、「参加企業・自治体の幅を増やしていく」ことです。JCIには、排出削減が難しい業界の企業や、自治体の参加がまだ十分に進んでいません。こういった企業、自治体の参加が進むことで、さまざまなセクターどうしの協働が、より力強くなると感じます。
できることから、小さなことでも
ーー最後になりますが、NET ZERO NOWの読者へ伝えたいことはありますか。
田中:「脱炭素」は、みんなが目指さなければならないところになっていると感じています。数年前までは一部の積極的な企業、自治体にとどまっていましたが、ここ2、3年で急速に脱炭素への方向性が明確になってきました。2030年には排出量半減、2050年には排出量ゼロという世界が目指す目標はすでにあるため、その実現に向けていかに早く取り組みを進めるか、ということがこれから特に企業にとっては生き残る上でも非常に重要になっていきます。
しかし、なにから始めたら良いのかわからない、という企業はまだまだたくさんいらっしゃると思います。やるべきことがわからないからその場で足踏みをする、というのではなく、まずはなんでもいいから始めてみることが大切です。JCIやJCIを運営する団体、また環境省など、それらを調べてみるだけでもたくさんの情報が出てきます。
JCIは、取り組みを進める入り口や情報収集の場としても入りやすいネットワークです。ぜひこのような枠組みを活用していただけたらと思います。ぜひ、一緒に1.5度目標の実現に向けて頑張りましょう。
JCIへの参加を希望する方は、こちらのURLからアクセスしてください。