バイオマス利用と気候変動の複雑な関係
バイオマス(木材)の廃棄物を燃やして熱を供給しても、分解するまで放置しても、二酸化炭素は大気中に排出されます。これに対して、多くの専門家が「気候変動に影響を与えない」という結論を出していますが、どちらにしても、炭素が二酸化炭素として大気中に放出される以上カーボンニュートラルを達成することはないでしょう。しかしバイオマス利用は、当初こそ上記のような悪影響を及ぼすものの、最終的には化石燃料の使用を減らし始めの二酸化炭素排出を相殺することができます。
バイオマス利用による「炭素負債」とは?
バイオマス利用による気候への最初の悪影響は、「炭素負債」と呼ばれることがあります。化石燃料を相殺するためにバイオマスを使い続ければ、最終的にはその負債を返済し、カーボンニュートラルを実現することができるのです。
アメリカ中西部では、ガソリンの代替として、トウモロコシの茎(穀物を収穫した後に残ったもの)を使ったエタノールの生産が長い間行われてきました。ここでは、このバイオマス廃棄物はいずれ分解されるものと考えられていました。もしこれが事実なら、廃棄物が分解され、土壌の炭素が大気中に放たれ地球温暖化の悪化に繋がるでしょう。しかし実際は、畑に放置しておくと炭素は土壌中に留まる、長期的には増えることが分かったのです。
バイオマスを栽培して地上部の作物を収穫し根や一部の廃棄物を残しても、土壌の炭素を枯渇させず、むしろ増加させる方法はたしかにあります。
しかし、その場合でも、さらに多くの炭素を蓄える機会を失ってしまうのではないでしょうか。熱を供給するための炭素を排出しない選択肢が他にあるのであれば、バイオマス(生物、残留物、土壌有機炭素)を廃棄するのではなく、保存して炭素を貯蔵する方が望ましく思えるでしょう。
バイオマス利用によって、化石燃料の使用を抑えながら快適な生活を
実は、上記の「炭素負債」の問題を解決する方法があります。それは、トレードオフの問題として捉えなおすことです。
炭素排出量の世界的な上限、及びすべての排出される炭素の価格を設定し、徐々にネットゼロに近づいていくのであれば、バイオマスエネルギーは、大気に放出された炭素のコストを支払うため、一時的に経済的負担をかけるかもしれません。しかしその場合、炭素の上限を維持するために他の場所での化石燃料の使用量を大幅に削減することになります。例えば、ジェット燃料の代替は、バイオマスからの合成ジェット燃料しかありません。飛行機での移動をあきらめるのではなく、バイオマスを利用することで、電気自動車など化石燃料を使わない移動手段への移行の促進や、土壌や植生への炭素貯蔵量を増やす別の方法の発見が叶うのです。また、空気中の炭素を回収して大気中の炭素を除去する方法や、炭素を排出しない高速輸送手段にも期待が持てるでしょう。
経済学の世界では、ほとんどの問題はトレードオフで考えられます。さまざまな技術的選択肢の経済性(市場効果と非市場効果)を考慮しながら、効用の最大化、もっと簡単に言えば、自分自身や子供たち、そしてコミュニティのために、今あるものを最大限に活用することを目指します。つまり、バイオマス利用と気候変動は考えられている以上に複雑な問題なのです。
参考記事:Another Viewpoint/Wood pellets and climate change: A not so simple story | Lewiston Sun Journal