アメリカの森林を守ることは、気候温暖化の抑制につながるーノースカロライナ州立大学の研究より
アメリカには8億エーカー以上の森林や林があり、そのほとんどが個人所有の土地です。今回のノースカロライナ州立大学の研究では、土地所有者が生産性の高い森林を維持するためのインセンティブが、温室効果ガスの排出を削減するための貴重な政策手段となり得ることが分かりました。
今回の研究は、米国の温室効果ガス排出量の削減に林業と農業が果たす役割を分析したものです。研究者らは、高度経済成長と化石燃料依存のシナリオや、持続可能性に焦点を当てたシナリオなど、5つの異なる社会経済的シナリオのもとで、この2つの部門からの温室効果ガス排出量をモデル化しました。
その結果、森林管理への投資と、これまで森林ではなかった土地への植林が、温室効果ガスの削減全体の中で最も大きな割合を占めていることが分かりました。対して、作物の土壌への炭素の貯蔵や家畜からの排出物の回収など、農業からの排出物を削減する戦略は高度経済成長期に重要な役割を果たしました。
景気を考慮した政策が重要ー化石燃料の需要が高まるほど炭素隔離は進む?
以下、ノースカロライナ州立大学のTAが行った、クリス・ウェイド氏への『Journal of Forest Economics』誌に掲載された今回の調査結果についてのインタビューです。
TA:炭素隔離において、林業はどのような役割を果たしたのでしょうか?
ウェイド: この研究から得られた大きな驚きのひとつは、GDPと人口が増加し、化石燃料への依存度が高まる高需要シナリオでは、林業と土地基盤に多くの投資が行われ、林業部門からの炭素隔離がより多く行われたということです。森林所有者は、20年後、30年後に木材製品の需要が高まったときに、その需要を満たすためのより多くの木材基盤を確保するために、今日の投資を行っていたのです。その結果、米国の林地における炭素の大規模な隔離と貯蔵が可能になります。
対して低需要成長シナリオでは、長期的に林産物の需要がほとんど伸びないため、林業部門への投資意欲が減退すると考えられます。このシナリオでは、個人所有の森林面積が最も少なくなり、土地利用が農作物や家畜の生産にシフトすると予測されます。森林の蓄積量が減少するだけでなく、畜産による排出量も増加するのです。ここで政策的なインセンティブを加えると、低成長経済シナリオの下では、森林保護による炭素の貯蔵や、農業生産による排出量削減のために、土地所有者に政府が資金援助を行うことになります。
つまり、将来を見据えて政策を決定しようとする場合、経済が成長しているのであれば、長寿命の林産品を促進することで炭素貯蔵量を向上させるのが最善の方法であると考えられるのです。一方、経済成長率が低い場合、あるいは景気後退が予想される場合には、土地所有者への資金援助が最良の結果をもたらす可能性があります。
農業と林業、両部門に注目し炭素吸収を促進しよう
TA:農業における排出量削減のための重要な戦略は何でしょうか?
ウェイド:最大のチャンスは、やはり畜産部門にあります。地球温暖化係数の高いメタンを削減するための、メタン消化器を使用するなどの糞尿管理活動です。
TA: カーボンプライシングの効果はどのようなものですか?
ウェイド:炭素隔離を促進する政策をとった場合、林業や農業などの土地利用部門から排出される炭素量よりも多くの炭素を貯蔵できることが分かりました。ただし、排出量を削減するための何らかの行動やインセンティブ(カーボンプライシング)が無ければ、気候目標を達成するのに十分な量ではありません。
カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)に適切な価格を設定することです。詳しくは下記の記事をご参照ください。
>>カーボンプライシング(CP)とは?脱炭素化・CO2削減に向けた2つの制度と企業の対応策 | NET ZERO NOW
TA:林業と農業、2つの部門が米国の炭素総排出量を削減する可能性はどのくらいあるのでしょうか?
ウェイド:私たちは、農業と林業に注目しました。この2つの部門は、全米で最も排出量の多いセクターです。他の部門を加えてしまうと、せっかく得られた小さな利益も失われてしまいます。しかし、排出削減の動機付けを適切に行えば、米国の林業・農業部門は炭素の純吸収源となる可能性があります。