世界が未だ意識していない、気候変動による深刻な健康被害
現在、新型コロナウイルスの流行により世界各国で医療体制が逼迫しており、現在及び将来の脅威に対して、医療供給の仕組みの見直しが急がれています。この問題を考える際、考慮せずにはいられない要因があります。それは、気候変動が身体的・精神的健康に与える影響です。気候変動に伴う健康被害は、感染可能性の増加から医療体制の破壊まで多岐にわたります。
例えば、気候変動の原因となっている大気汚染は、毎年420万人の命を奪い、さらに数多くの人々を病気や衰弱に追いやっています。また、ハリケーンや洪水などの気候変動は、医療インフラやサービスを破壊したり、利用を制限したりする可能性があるのです。
現在、国家間の気候変動対策資金のうち、保健分野のプロジェクトを対象としているものの割合はわずか0.5%であり、さらに、この問題に対する国内の資金調達も最小限、あるいは皆無です。
保健福祉において気候変動は、その健康への影響の大きさにもかかわらず十分に意識されているとは言えません。各国が気候変動による健康関連のリスクを国家気候・保健戦略に統合し、実行に移す必要があるでしょう。
気候変動は、実際に健康にどのような被害をもたらすのか?
具体的に、気候変動は私たちの健康にどのような被害をもたらすのでしょうか。感染症拡大やうつの発症、また貧困の加速にいたるまで、直接・間接的にさまざまなものがあります。
1. 媒介・水系の病気のリスクが高まる。
気候変動により環境の変化が生じると、病気を媒介する蚊やその他ウイルスに好ましい生息条件が揃い既存の感染症がさらに拡大する恐れがあります。
例えば、実際に気温の上昇により蚊の繁殖範囲が拡大し、マラリアが新しい地域に移動しました。ある研究結果は、西アフリカでは2050年までに新たに5,130万人もの人々がマラリアにかかる危険性があると示しています。
また、降雨量や水質の変化も病気を誘発する可能性があります。ガーナでは、洪水によって水質が汚染され、コレラ、下痢、マラリア、髄膜炎などの発生率が大きく上昇しました。
2. 人命や生活へのリスクの増大
気温上昇や豪雨、地すべりなどの現象は、身体的傷害、水の汚染、労働生産性の低下、不安やうつなどの精神的ストレスを引き起こす恐れがあります。
また、雨季の変化や海面上昇による塩分濃度の上昇などは、ただちに人体に影響を与えることはないものの、ゆるやかにに作物の収穫量や品質を低下させます。長期的な食糧不安や栄養不足により、日々の生活や子どもの成長と発達に悪影響をもたらすでしょう。
3. 社会的不公平感の増大
気候変動の影響は、貧困に苦しむ人々、社会的に疎外されている人々、女性、子ども、高齢者、すでに病気を患っている人、障害を持って生活している人など、社会的に弱い立場にある人々が特に感じています。
具体的には、すでに衰弱した免疫システムに起因する傷害や病気のリスクの上昇や、栄養不足やストレスによる既存の健康問題の悪化、またこれらの結果としての貧困や社会的な脆弱性の加速などが考えられます。
各国政府が実行すべき「悔いのない適応策」とは?
上記のように人体にさまざまな影響を及ぼす気候変動、各国政府はこの気候変動の影響を医療制度や生活インフラに関する政策に組み込む必要があります。
ここで重要な概念は、「悔いのない適応策」です。気候変動の影響が深刻化する前に、盤石な体制を作っておくということです。例えば、強固な食料供給や医療システムの構築、技術や設備の改修、医療スタッフのトレーニングの強化、医療サービスの中断に対する保護などが挙げられます。
世界で最も気候変動の影響を受けやすい国の1つであるフィジーは、保健省内に「気候変動と健康組織」を設置し、世界に先駆けて以下のような解決策を示しています。組織は、IT技術を用いて早期警戒システムを構築し、そのシステムを通じて気候変動による健康リスクに関する信頼度の高い情報を獲得します。得られた情報によって保健機関は迅速な対応が可能になり、危険度の高い地域で疾病予防策を実施できるようになるというものです。
現在と未来の世代の健康を守るために
気候変動と健康の関連性は、研究が進み明らかになってきています。しかし、未だ気候変動の影響を考慮した政策は多くありません。各国は現在、新型コロナウイルス流行により、体制改革のきっかけを与えられていると言えるでしょう。政策立案者は、フィジーの例のように、気候変動が与える影響の実態やリスクを把握し、国民の安全な生活を保障なければなりません。保健医療体制の強化や体制を支える仕組み作りによって、現在と未来、両方の世代の生活と健康を守ることができるのです。
The Effects of Climate on Health & How Countries Can Respond | World Resources Institute (wri.org)