環境マネジメントシステム(EMS)とは?仕組みと種類・企業事例を解説
組織や事業者は、経営の中で環境保全に取り組んでいくにあたり、環境問題に関する方針や目標を自ら設定し、これらの達成に向けて環境経営をおこなう必要があります。環境マネジメントシステム(EMS : Environmental Management System)とは、このための工場や事業所内の体制・手続きなどの仕組みのことです。この記事では環境マネジメントシステムの仕組みと、運用する国内企業の事例について解説していきます。
環境マネジメントシステム(EMS)とは
企業や組織が環境問題に取り組む際に環境保全に関する方針や目標を定めて実行することを、「環境経営」と呼びます。環境マネジメントシステムとは、この環境経営をおこなうための仕組みのことです。Environmental Management Systemの頭文字を取り、「EMS」と略されることもあります。この環境マネジメントシステムには、環境問題に対する方針を作成し実行するための組織体制や活動、慣行、手順、資源などが含まれます。
環境マネジメントシステム(EMS)の仕組み
環境マネジメントシステムは、計画を立て、実行に移し、評価を受け、改善するというPDCAサイクルを繰り返すことが基本です。温室効果ガスの排出量削減に関する数値目標や達成に向けての計画を設定し、持続的に事業活動や自社製品が環境に与える影響を正しく算定し、フィードバックを得ながら改善していきます。
環境マネジメントシステム(EMS)の種類
環境マネジメントシステム(EMS)を導入するために、さまざまなシステムが用意されています。本項では、国際的な標準であるISO14001や、国内の中小企業を対象にした規格など、代表的なものを4つご紹介いたします。
国際規格 ISO14001
ISO14001とは、ISO(国際標準化機構)が定める環境マネジメントに関する国際基準です。消費者や投資家が、企業の環境保全活動を客観的に評価するために用います。
この規格には、環境マネジメントをおこなう際に遵守しなければならない事項が盛り込まれており、企業の効果的な環境マネジメントシステムの構築を手助けします。
環境省 エコアクション21
エコアクション21は、環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステムです。先ほど紹介したISO14001を参考にしながら、中小企業にとって取り組みやすい環境経営の仕組みを示している点が特徴になります。
参考記事
>>エコアクション21 中央事務局 一般財団法人 持続性推進機構(IPSuS) (ea21.jp)
エコステージ
エコステージは、中小企業が利益を確保しながら環境保全に取り組むための環境マネジメントシステム構築を支援するシステムです。2003年に名古屋の環境マネジメント研究会が発足した民間の規格で、さまざまな支援ツールを提供しています。
参考記事
>>一般社団法人エコステージ協会 | 環境経営システム支援ツール (ecostage.org)
KES・環境マネジメントシステム・スタンダード
KESは、K=Kyoto、E=Environmental Management System、S=Standardを表し、中小企業を始めとしたさまざまな事業者に対して、取りいれやすい環境マネジメントシステムを提供する団体です。審査員はボランティアベースで審査をおこなうため、他の環境マネジメントシステムに比べて低いコストを実現しています。
参考記事
>>KES・環境マネジメントシステム・スタンダード (keskyoto.org)
環境マネジメントシステム(EMS)のメリット・デメリット
企業が環境マネジメントシステム(EMS)を構築することで、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
環境マネジメントシステムのメリット
環境マネジメントシステムのメリットには、
- 取引先に温室効果ガスの削減を求める企業に、自社製品・サービスをアピールできる
- 企業イメージのアップ
- 経営方針を会社全体に広めることができる
- 環境保全を経営に組み込む手順が明確になり、環境経営を効率よく進められる
などがあります。
環境マネジメントシステムのデメリット
いくつかデメリットも挙げられます。以下の通りです。
- マニュアル作成などの業務が増える
- 他のマネジメントシステムに比べ、効果を実感しにくい
環境マネジメントシステム(EMS)を採用した企業の事例3選
環境マネジメントシステム(EMS)を採用している国内企業を、3つご紹介します。
第一中央汽船株式会社
第一中央汽船株式会社は、1892年創業の総合海運会社です。同社は、環境マネジメントシステムを採用し、その手順に従って船上廃棄物の適切な処理や油の海への流出防止、船底の塗料を溶け出しても問題のないものに限定するといった取組をおこなっています。2005年に認証を受け、2014年の更新審査を経て現在まで環境経営に取り組んでいます。
参考記事
>>環境マネジメントシステム | 第一中央汽船株式会社 (firstship.co.jp)
富士通株式会社
大手通信会社の富士通株式会社。2004年に国内の子会社を対象にISO14001を取得し、2005年には対象を海外の子会社に拡大してグローバル統合認証を取得しました。2020年には「サステナビリティ経営委員会」を設置し、定期的に環境問題による事業リスクや対応方法などに関する報告会を開き、環境経営の方針を決定しています。
参考記事
>>環境マネジメントシステム : 富士通 (fujitsu.com)
アスクル株式会社
文具や医療・介護関連用品、日用品を販売するアスクル株式会社。2004年3月、環境マネジメントの国際規格であるISO14001の認証を取得しました。同社が採用しているのは、各物流センターを1つの環境マネジメントシステムに基づいてまとめる「マルチサイト方式」です。また全社的に環境問題に取り組んでいくために、パートナー会社の社員や派遣社員などすべての社員を対象に、環境問題やアスクルの環境活動に関する環境教育を実施しています。
参考記事
>>環境マネジメントシステム | 環境 | アスクル – 環境・社会活動報告 (disclosure.site)
まとめ|環境マネジメントシステム(EMS)を導入して企業価値向上を
環境マネジメントシステム(EMS)を導入することで、企業イメージのアップや自社の商品・サービスの売上促進などさまざまなメリットが得られます。現在中小企業向けにもさまざまな環境マネジメントシステムが用意されているため、どのような規模の企業でも気軽に導入することができるでしょう。まずは、自社に合った環境マネジメントシステムについて調べるところから始めてみてはいかがでしょうか。