バックキャストで考えれば、サステナビリティ経営は必然。オムロンのエネルギーへの向き合い方
オムロングループは約120カ国を対象に事業を展開しているオートメーションのリーディングカンパニーです。工場で使用される制御機器や電子部品、また社会システムやヘルスケアなど、さまざまな分野で活躍しています。
今回は、オムロンソーシアルソリューションズ株式会社のエネルギーソリューション事業本部創発戦略部長である榎並顕さんをお呼びし、オムロングループの長期ビジョンである「Shaping the Future 2030」やエネルギーへの向き合い方についてお話をお聞きしました。
記事は前編・後編の2つに分けてまとめています。
後編はこちら
>>https://netzeronow.jp/omron-2/
インタビュイー:榎並 顕 えなみあきら
2002年4月 オムロン株式会社 入社
2002年7月 同 技術本部 先端デバイス研究所にて光通信技術開発に従事
2004年4月 同 技術本部 SPICAプロジェクトにて韓国・フィンランド企業との事業開発に従事
2007年6月 同 事業開発本部 新事業プロデュース室にて環境事業推進本部の立ち上げに従事
2009年4月 同 環境事業推進本部 にて新規事業開発に従事
2011年4月 OMRON Electronics Manufacturing of Germany GmbH(ドイツ)にて環境事業企画・推進に従事
2013年5月 Omron Europe B.V.(オランダ)にて環境事業(欧州・中東・アフリカ)を統括
2016年4月 オムロン株式会社 環境事業本部にて海外事業開発に従事
2017年4月 同 環境事業本部 海外マーケティング課長に就任
2019年6月 同 グローバル戦略本部にてオムロングループ次期10年ビジョン策定に従事
2022年4月 オムロンソーシアルソリューションズ株式会社 エネルギー事業本部 創発戦略部長に就任。
2022年7月 株式会社NTTスマイルエナジー 取締役(非常勤)に就任。 現在に至る。
すべての事業はサステナビリティ方針に基づいて実行される
ーー今回は取材の機会をいただきありがとうございます。早速オムロンのサステナビリティへの向き合い方をお伺いできればと思います。
榎並:こちらこそ貴重な機会をいただきありがとうございます。サステナビリティの捉え方ですが、オムロングループには10年後にありたい姿と、そこに向かう進化の方向性を示す長期ビジョン『Shaping the Future 2030』があります。この長期ビジョンの策定にあたっては、事業計画とオムロンが設定するサステナビリティ重要課題を一体化して検討しました。しかし、常に私たちの経営の軸となっているのは、オムロンの創業以来、変わることのない私たちの判断や行動の拠り所であり、求心力であり、発展の原動力である企業理念です。
(オムロンの企業理念;https://www.omron.com/jp/ja/about/corporate/vision/philosophy/)
つまり、すべての事業は企業理念、そしてサステナビリティ方針に基づいて、実行されます。
オムロンは1933年の創業時、それこそSDGsが制定されるはるか昔より、社会課題を解決するという観点で事業運営をおこなっており、多くの社会課題を解決してきた企業です。そのような考えの元にあるのは創業者である立石一真が提唱した「SINIC理論」です。
ここでは詳細は割愛しますが、未来を予測するための理論だと考えていただけるとよいかと思います。
(参考:https://www.omron.com/jp/ja/about/corporate/vision/sinic/theory.html)
オムロンは幅広い事業ポートフォリオを持っていますが、例えば血圧計事業や決済事業も、SINIC理論に基づき「社会はこうなるはずだから、そのときにはこんな課題があるはず」という考え方でバックキャストして事業を作ってきました。手繰り寄せたい社会像を描き、その社会の実現のためにオムロンは何をできるのか、という観点です。
サステナビリティ経営は事業戦略そのもの
榎並:創業時から続いてきた社会像を描き、それに基づくバックキャストでの事業の創り方ですが、改めて10年後の社会がどうなるのかを考えて長期ビジョンの『Shaping the Future 2030』を掲げました。不確実性が高まり、変化が速い時代ですが、全人類の共通のアジェンダである「気候変動」「高齢化」「個人の経済格差の拡大」という社会変化から、社会インパクトが大きく、自社の強みが活かせるオムロンが取り組むべき3つの社会的課題を設定しています。
それは、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」です。それらの3つの社会的課題の解決に向けて、オムロンの4つの事業を通じて社会活を創出するというのがこの図です。
これら3つの社会的課題の解決に向けて、オムロンの4つの事業を通じて社会価値を創出するというのがこの図です。
これらの事業内容は時代とともに変化していくものですが、前述の3つの社会的課題を解決していくためには、これら4つの事業をコアとし、解決に取り組むことが必須だと考えています。
最初に、オムロンの事業はサステナビリティと連動して実行されるとお伝えしましたが、この図を見ていただいてもわかるように、サステナビリティ経営と事業戦略が一体化している状態です。サステナビリティ経営は、持続的な成長を、グローバル共通のアジェンダを解決することで実現していくと言えるかもしれません。
エネルギーは貨幣と同じくらい生活のベースになっている
ーー徹底したバックキャストで事業を作っているんですね……。その中で榎並さんが所属してらっしゃるオムロンソーシアルソリューションズ株式会社は何をやられているんですか?
榎並:前置きが長くなりました。
私が所属しているオムロンソーシアルソリューションズ株式会社は、さきほどの事業ドメインの中では「ソーシャルソリューション」に位置付けられており、SE2030においては再生可能エネルギーの普及・効率的利用とデジタル社会のインフラ持続性への貢献を目指しています。そのために、
- 発電を安定化させる制御システムの提供
- 現場システムの効率的な運用を支援するマネジメント&サービスシステムの開発
- 社会インフラ全体の運用効率向上
の実現を目標としています。
ここからは、発電を安定化させる制御システムの提供というエネルギーに関わる取り組みに絞ってお話ししたいと思います。
エネルギーは、貨幣と同じく生活の基盤となっていると思います。今(2022年6月)首都圏では今夏・冬のエネルギー不足が危惧されていますが、将来にわたって社会全体が豊かであるためには、地球環境が健全に保全されることが必要不可欠です。
ただ、みなさんエネルギーは重要なものと理解はしていますが、その重要なエネルギーは見たり触ったりすることができません。日々当たり前のように恩恵を得ていますが、見えないからこそお金を払ったら手に入るものと思っている方々も少なくないと思います。
エネルギーを「供給する側」と「使う側」との課題ギャップ
榎並:私たちは、今世界が直面している気候変動問題において、エネルギーを「供給する側」と「使う側」に認識のギャップが存在していると考えています。
「使う側」にとってエネルギーはあって当たり前と思っていますし、経済価値以外に新たな行動を促すインセンティブが働きにくいのが現状です。一方で、「供給者側」はエネルギーを作る事業者、届ける事業者それぞれにおいても、多くの課題が存在し、再エネのポテンシャルをフルに活用するために不可欠な「需給調整機能」に対する経済的なドライブがかかっていません。
「使う側」はエネルギーを「作る側(提供する側)」を意識しながら使うことや、自分がしたことに、エネルギーにはどのような影響が及ぼされているのかを考えながら使うことが必要です。
この両者の間に橋をかけるために、僕らは「供給側」と「使う側」の間に新しい意味付けが必要だと考えています。
具体的には「エネルギーの持つ意味を拡張する」ことが必要だと考えています。
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