【江守正多氏インタビュー】加速する気候変動の問題に、企業は今なにをすべきか

「環境経営、脱炭素経営」は年々重要になってきており、多くの企業が関心を持ち始めています。しかし、興味はあるものの何をすればいいのかわからない担当の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、今回は地球の気候変動を長年研究されている、国立環境研究所・地球システム領域/副領域長の江守正多さんにインタビューをおこないました。江守さんが考える環境経営、脱炭素経営のあり方とは。ぜひご覧になってください。

江守正多

1970年神奈川県生まれ。

東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。

1997年より国立環境研究所に勤務。

地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長等を経て、2021年より地球システム領域副領域長。連携推進部社会対話・協働推進室長を兼務。

2021年より東京大学総合文化研究科広域科学専攻客員教授。

専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次評価報告書主執筆者。

目次

気温上昇によって私たちに降りかかる悲劇

ーー本日はありがとうございます。早速ですが、近年地球温暖化が加速し、気温上昇に拍車がかかっているという報道をよく耳にします。このまま気温上昇が進んでいったときに、生活に与える影響や、企業に与える影響は、どういったものがあるのでしょうか?

江守:現時点で既に極端である猛暑や大雨が、より激甚化していくことが予想されます。生活面では、大雨によって増えた洪水や浸水などが大きな被害をもたらす可能性が徐々に高くなってきています。ただ、こういった被害は、ニュースで報道されていてもどこか「他人事」として受け取ってしまうという現実があります。しかし、このまま気温上昇が進んでいくと、いつか自分が被害者になる確率が格段に増えてきます。この現実をしっかりと受け止め、一人一人が向き合い、行動を起こすことが重要なのではないでしょうか。

そして企業面では、建設現場は特に気温上昇の影響を受けているように感じます。最近では高温で外で働けなくなる事態を防ぐために、「空調服(扇風機が内蔵されている作業着)」が普及し始めています。今後、気温上昇がより進行していくことを考えると、こういった空調服が一般的にも使われるようになっていくかもしれません。また食品産業に目を向けてみると、原料の輸入元に被害が出るとサプライチェーン全体へ深刻な影響が出る可能性があります。それ以外にももちろん、自社の施設等が異常気象の被害を受ける確率が増えていきます。

環境経営に取り組むことは「新しい常識」

ーー次は、環境経営についていろいろ聞かせてください。大企業の間ではSBTTCFDRE100などの国際的なイニシアチブへの取り組みが盛んになっていますが、企業の大部分は中小企業です。中小企業にもなにかできることはあるのでしょうか?

江守:そういったイニシアチブに向けては、「できること」というよりは「やらなければいけなくなっていく」と考えられます。例えばAppleはRE100を達成しており、部品を作っている工場を持つ企業は、RE100に取り組んでいなければサプライチェーンに入ることができません。

このように、大企業がRE100になることで取引先にもRE100を求めるため、中小企業も大企業と取引をおこなうためにRE100を目指すようになりました。そういった試みが近年盛んになってきており、環境経営に取り組むことが当たり前といった「新しい常識」が社会に生まれています。さらに投資の面でも、ESG投資(環境経営などに積極的に取り組んでいる企業へ優先的に投資をおこなう投資手法)が広まっているため、企業の大きさに関わらず、すべての企業の環境経営が求められていると感じます。

ーーまだその「新しい常識」を理解していない企業も多いと感じています。2050年に向けて世界中がカーボンニュートラルを達成しようと努力している中で、日本の企業や組織はどのような意識や活動が必要だと考えますか?

江守:やはり必要となってくるのは再生可能エネルギーを増やしていくことだと考えています。しかしここから先は意見が分かれていきます。1つ目は原発をどれくらい使うのか、そして2つ目は水素・アンモニアによる火力発電をどれくらい使うか、という話です。これらを使うべきだと唱える人、はたまた再エネ100%を望む人、と意見が分かれます。しかしとりあえずは、CO2を大気に出してしまう化石燃料はゼロにしていくことが必要なため、エネルギーのシステムを30年かけて入れ替えることが1番大事なことと認識しています。

そしてパリ協定をきっかけに「低炭素社会」から「脱炭素社会」へ目標がシフトしたことにも意識していってほしいです。今まではCO2排出量を「何%減らせるか」が問われましたが、現在は排出量を「いつまでに0%にできるか」が厳しく問われています。

そのためには、CO2排出量が0%になった世界を頭に浮かべ、その世界では自社のビジネスがどうなっているのか、また存在しているのかどうかを想像してほしいです。この先、そのままでは存在が難しくなってくると考えられる化石燃料業界などの企業は、その事業モデル自体を変える必要が出てくると思います。

富士フイルムという会社を例に出すと、この会社は2000年代くらいまではカメラのフィルムの企業でした。しかし時代が移り変わるにつれて、デジカメの普及によりフィルムの需要が減ったことで現在は医療品や化粧品などの製造に大転換し、総合ファインケミカルカンパニーとして成功しています。同じような大転換の必要性が、脱炭素の流れによって多くの企業で生じるのだと思います。口で言うのは簡単ですが、実際はとても難しいことだと思います。しかしこれからの未来でも通用する企業になるためには、今までの強みを生かしながら、新たに必要なものに価値を生む企業になっていく必要があるのではないでしょうか。

より多くの企業を環境経営に導くには「ルールの変更」が必要

ーーCO2排出量を減らす努力をしている企業は着実に増えてきていると感じます。ただ、一社が完璧にCO2測定・削減・オフセットが素晴らしくできたとしても、日本全体が変わるのは難しいと思います。江守さんとしては、環境経営を多くの企業が取り組むにあたってなにが必要だと考えていますか。

江守:一言で言うと「ルールの変更」が必要だと思います。今現在環境経営のフィールドで1番の焦点となっているのが「カーボンプライシング」です。菅政権では積極的にカーボンプライシングの指示を出しており、環境省も本格的な予算要求をしましたが、今回内閣総理大臣が変わったことでその指示に変化が出る可能性もあります。しかし日本において本格的な炭素税が現実化してくる未来は、そう遠くないと考えています。

そうすると、CO2を排出していない商品が、排出している商品と比べて相対的に有利になり、消費者が自然とCO2を排出していない商品を選ぶ時代が来るでしょう。というより、その時代が来なくてはいけないと感じます。実際に、金融業界ではその動きがでてきています。CO2を多く排出する企業は評価対象・投資対象にならない、といったESG投資がそのうちのひとつです。

ルール変更が、すべての企業が取り組まなければいけない「ドライバー」となっています。

ーーお話にも出ていた菅政権では、2030年までにCO2削減量−46%(2013年度比)を公言しました。しかし我々の調査では、−46%は現実的な数字とは思えないのですが、専門家としてはどのようにお考えですか?

江守:結論から言うとこの数字の実現は、簡単ではないけれど原理的には可能だと思っています。実際に先日「地球温暖化対策計画」というものがパブリック・コメントを締め切って、閣議決定をされたのちに出てきます(※)。その中に−46%にする計画が詳しく載っているので、それを見ると、何をすれば◯◯%減るということが積み上げでわかるようになっています。僕自身も政府の審議会に委員として出席していました。もちろん、計画通りにいくものではないと思いますが、−46%への道筋が一応示されていることは確かです。

−46%実現には、再エネ(太陽光や風力など)を増やしていくことはもちろんのこと、ガソリン自動車から電気(ゼロエミッション)自動車に変えたり、冷暖房エネルギー需要を減らすために建物の断熱を良くしたりすることが必要だと考えています。そういったことを徹底的にやっていくことで、−46%という大きな目標の達成に繋がっていくのではないでしょうか。しかしながら、原発が再稼働するかどうかで、どのように実現できるかは大きく左右されると思います。

※)取材時は未決定でしたが、2021年10月22日に閣議決定されています。詳しくはこちらをご覧ください。

>>地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定) (env.go.jp)

カーボンオフセットの取り組みと植林活動の懸念点とは?

ーーCO2排出量を0にする。つまりネットゼロ達成のための具体的な話も聞かせてください。多くの企業はCO2排出の削減活動に専念していると思っていますが、同様にカーボンオフセットも重要と思っています。植林活動なども企業活動・環境経営には必要なのではないでしょうか?

江守:植林活動はもちろん重要ですが、注意しなければいけないと考えています。と言うのも、オフセットビジネスで植林活動をしようとすると、もちろんコストを抑えての植林を考えると思うのです。しかし、コストを抑えた植林は単一樹種ばかりになってしまうため、その土地の生態系を壊すことになりかねません。「そういった植林でオフセットをした」という企業が現れることが懸念点となると考えています。もし植林活動をするならば、単一樹種ではなく、その土地の生態系に合った木を植えること、また、その生態系をつくるために植林をすることを徹底していただきたいです。

ーーまさしくですね。いまおっしゃっていただいたように、環境問題・環境経営について、すべての情報をそのまま受け入れていいわけではないと思っています。江守さんは、専門家としてどういったことを気をつけていますか?

江守:僕はどんな情報に気をつけるべきか、というよりも、すべての人が言うことにはバイアス(偏った見方)がかかっていると考えています。例えば、〇〇はだめ、〇〇は良い、といった意見にはそれぞれ妥当な部分があると思うのですが、同時にそれぞれに発信者の価値観によるバイアスがかかっているのではないでしょうか。自然と自分の主張に都合の良いように強調するところを変えていたりする場合があるので、そこを意識して情報収集するようにしています。

また、これは自分自身にも同じことが言えます。自分の話していることにバイアスはかかっていないのか、またそれが議論を歪めてはいないか、常に自問自答する必要があると思います。もちろん、意図的に偏った情報提供をしている人もいるため、その情報が本当に正しいのか、見抜く力を養う必要があります。

生活の質を向上させて心地良い脱炭素社会へ

ーー多くの方が環境問題や環境経営に興味を持つようになってきています。ちなみに、江守さんを突き動かしているモチベーションは、一体どういったものなのでしょうか?

江守:人はもちろんいつかこの世を去るときが来るのですが、そのときに「自分自身が意味のあったと思えるような人生を送るため」に、ということが根底にあります。僕はこの「気候変動」という問題を知り、僕がなにか調べたり発言したりすることによって気候変動に少しでも影響を与えることができるかもしれない、という可能性を胸に今活動をしています。「気候変動」は人類の運命がかかった問題なため、この問題を人類が克服することに少しでも貢献したいと思っています。

ーー人類の未来、人類の運命を考える上で、環境問題・環境経営はこれからの永遠のテーマになるのだと考えています。これからもずっと発展していける経済環境を作っていくために、どんな意識・活動が必要と考えますか?

江守:ある意味で、生活のあり方を見直す必要があると考えています。今実は、再エネに移行したらエネルギー使い放題でいいのか、という問いに対して、原理的には良いのだけれど現実的にはうまくいかないのではないか、という議論が沸き上がっています。今の先進国では、特に富裕層が、必ずしも生活に必要のないものを過剰消費することが許される社会だけれど、それを変えていかねばならないのではということです。必要のないものを大量生産、大量消費、大量破棄し続けながら、同時にCO2を減らしていくのは極めて難しいでしょう。そのため、本当に必要なものだけを購入しつつ、生活の質を向上させる心地の良いCO2排出0%の世界を目指していくべきではないかと考えています。

まとめ|江守さんへのインタビューを終えて

「気候変動」というものは、身近なことながら、どこかで他人事のように感じてしまいがちな議題だと思います。この地球に生きている限り、絶対に無視することができない気候変動問題について、最前線で活躍している江守さんの話を聞くことができ、貴重な体験となりました。CO2排出ゼロを実現させるには、企業活動も個人の生活も柔軟に変化させていかなければなりません。何十年後の世の中をより良いものにするために自分にできることは、また自社でできることは何なのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

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