サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは?戦略と必要な理由・企業事例を解説
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは、企業の持続可能性(サステナビリティ)の実現を目指す経営方針の変革(トランスフォーメーション)です。投資家と企業との対話を促し、中長期的な経営力の向上や、社会的な価値創造を図ります。SXが注目される背景には、気候変動や技術革新といった予測困難な現状があります。株主や消費者、従業員に求められる企業になるには、持続可能性の視点が欠かせません。
本記事では、SX実現のために必要なポイントや、SXを推進する企業の事例を紹介します。
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは、企業の持続可能性(サステナビリティ)の実現を目指す経営方針の変革(トランスフォーメーション)です。この章では、SXが提唱されるようになった背景や、DX・GXとの違いについて解説していきます。
経済産業省の検討会が提唱
社会的に企業の持続可能な経営が求められるようになっていることを受けて、経済産業省は2019年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を立ち上げました。この中で議論の中間取りまとめがおこなわれ、企業の稼ぐ力とESGの両立を可能にするSXという概念が提唱されました。
DX/GXとの違い
最近よく耳にするようになった、デジタルトランスメーション(DX)はSXと似ていますがまったく意味の異なる言葉です。また、グリーントランスメーション(GX)とSXも混同されがちなので、しっかりと違いを理解しておきましょう。
DXにはさまざまな定義がありますが、経済産業省によると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。つまり、ビックデータやAI、IoTの利用によって、企業の競争力を高める取り組みであると言えます。そのため、持続可能な経営と利益追求の両立を目指すSXとは、目的も手段も異なります。
次にGXは、環境問題に焦点をおいた変革であるという点でSXと異なります。GXの目標は、日本国内でカーボンニュートラルの実現を達成しながら、世界における産業競争力も高めていくことです。
ここまでSXとDX、GXの違いを述べてきましたが、SXやGXを効率的に進めていくためにはDXが必要不可欠だと考えられており、全く関係のない言葉ではないということも重要です。
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)が必要な理由
このようにSXが注目されているのには大きく分けて2つの理由があります。1つ目は、ビジネス環境が変化しているため、2つ目は、社会要請が高まっているためです。この章では、これらの理由についてくわしく解説します。
ビジネス環境の変化
まずは、ビジネス環境の変化が挙げられます。現在、気候変動や、化石燃料の枯渇によって、以前は問題のなかった事業の先行きが怪しくなったり、新型コロナウイルスの蔓延で大打撃を受ける産業があったりと、予測不可能な事態が続いています。同時に、めざましい技術の進歩によって、新しいビジネスが次々と生み出されています。このような状況で多様化するリスクと機会に対応し、SXによって持続可能なビジネスモデルを構築する必要があるのです。
社会要請の高まり
現在、社会的にESGやSDGsといった言葉が注目を集めています。これは以前のような、利益のみを追求し、社会への影響を顧みない企業活動を問題視する声が高まっているということです。また、先述のビジネス環境の変化によって、投資家が投資先にサステナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(強靭性)のある経営を求めるようになっているという動きも、企業によるSX推進を後押ししています。
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)実現への戦略
では、企業がSXを実現するためには、どのようなことが求められるのでしょうか。経済産業省による「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめ概要」では、「稼ぐ力」の強化と社会のサステナビリティを経営に取り組むこと、それから投資家との対話によるレジリエンス強化が必要だとされています。この章では、それぞれについて説明していきます。
「稼ぐ力」の強化
「稼ぐ力」の強化、というと、利益追求を最優先にして社会への影響を考えない、以前の経営方針に近いのでは、と思うかもしれません。しかし、ここでいう「稼ぐ力」とは、企業の強みや競争優位性、ビジネスモデルのことを指します。いくら社会への貢献活動をおこなうべきとはいっても、利益を生み出せず倒産してしまっては元も子もありません。そのため、企業の「稼ぐ力」が強化されない限り、継続的に社会への価値提供をおこなっていくことは不可能です。つまり、SXの実現には、強みを活かしたビジネスモデルの構築によって、企業のサステナビリティを高めていく必要があります。
社会のサステナビリティを取り込む
社会のサステナビリティとは、将来的な社会の姿のことです。気候変動や世界的感染症の蔓延、技術の進歩によって、先を読むのが難しい社会とはいえ、ある程度未来像を予測し、新たなビジネスチャンスと起こりうる問題を逆算して、現在の経営方針に反映してしていかなければなりません。
投資家との対話によるレジリエンス強化
さらに、上記の企業のサステナビリティと社会のサステナビリティをふまえて、企業と投資家が対話をおこなうことが重要だとされています。この対話を通じて、予想通りの未来にならないことをふまえたうえで、レジリエンスの高い、すなわち何が起こったとしても対応できるしなやかな経営方針を打ち立てていくことが必要になります。
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)の成功に必要な「ダイナミックケイパビリティ」
また、SXにはダイナミックケイパビリティが必要だと言われています。では、ダイナミックケイパビリティとは、どのようなものなのでしょうか。
ダイナミックケイパビリティは、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院のデビット・ティース教授が提唱した戦略経営論で、企業変革力とも呼ばれます。これは、SXのみならずDXなどにも必要な力です。ティース教授は、ダイナミックケイパビリティを以下の3つの要素に分けています。
- 感知(Sensing):状況の変化を認識し、それに伴う新たなリスクや機会を発見する力。
- 捕捉(Seizing):感知によって発見されたリスクと機会を、現在持っている技術や資産を駆使して対処する力。
- 変革(Transforming):感知や捕捉によって新しい環境に一時的に対応したのち、今後も継続的な対応をできるよう資源や組織を再編していく力。
これら3つの、感知・捕捉・変革を繰り返しおこなっていくことが、SXに必要なのです。
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)を推進する企業の事例
この章では、既にSXに取り組んでいる企業の事例をいくつか紹介します。
K-CEP|九州・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ
K-CEP(九州・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ)とは、九州地域における、資源の最適循環と持続可能社会の実現に資するビジネス創出を目指す企業連合です。アミタホールディングス株式会社やNECソリューションイノベーター株式会社が参画しています。現在は、その活動範囲を全国に広げ、J-CEP(ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ)も存在します。
このようなK-CEPが2021年におこなった、「MEGURU BOXプロジェクト」も、SXと言えます。このプロジェクトには、日用品を販売するエステー株式会社や花王株式会社、クラシエホールディングス株式会社など多数のメーカーが参加しました。
家庭から出るプラスチック容器をスーパーや公共施設で回収し、限りある資源を守ろうという取り組みですが、さらに、回収された資源の量に応じてポイントがもらえ、地域の社会支援団体に寄付をすることができるという、画期的な企画もおこなわれました。
日立エナジー┃カーボンニュートラル
日立がアメリカのABB社を事業融合し設立した日立ABBパワーグリッドは、2021年10月に持続可能なエネルギーの未来へのコミットメントを強化することを目的に、日立エナジーとして社名変更をおこないました。そもそも、ABB社は太陽光エネルギーの開発といった事業を手がけている会社でしたので、日立製作所におけるカーボンニュートラル実現のために、研究・開発を進めています。実際に、カーボンニュートラルの目標を達成することができれば、SXの実現につながるでしょう。
Nature Innovation Group┃アイカサ
株式会社Nature Innovation Groupは、アイカサというサービスを提供する企業です。アイカサとは、急な雨によって不要なビニール傘を購入せざるをえないという、誰もが一度は経験するような状況に着目した、傘のシェアリングサービスです。このサービスによって不要なビニールテープ傘の消費と廃棄が抑えられるため、地球環境の改善に貢献しています。これもSXと呼べるでしょう。
まとめ|将来にわたって活躍できる企業に
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは、企業の持続可能性(サステナビリティ)の実現を目指す経営方針の変革(トランスフォーメーション)です。投資家と企業との対話を促し、中長期的な経営力の向上や、社会的な価値創造を図ります。実現のためには、「稼ぐ力」の強化や投資家との対話、ダイナミックケイパビリティなどが必要ですが、既に多くの企業がSX実現に取り組んでいます。
SX実現にいち早く取り組み、将来にわたって活躍できる企業づくりをおこなっていきましょう。