パリ協定とは?脱炭素社会の実現に向けた目標や京都議定書との違いを分かりやすく解説
加速する地球温暖化を止めるための、国際的な取り組みの一つである「パリ協定」。名前は聞いたことあるけれど、具体的な内容は分からない、といった方が多いのではないでしょうか。本記事では、パリ協定が採択された経緯やパリ協定の前身である京都議定書との違い、またパリ協定を巡ってのアメリカや中国といった大国の動向も解説します。
パリ協定とは
「パリ協定」は、2015年12月12日にフランスのパリで行われた、「国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)」にて採択された国際的な取り決めです。これは、地球温暖化の加速を止めるために世界各国の温室効果ガス排出量を大幅に減らそうという目的で作られました。2021年2月時点では197カ国もの国が賛同しており、世界が脱炭素社会に向けて共に歩み始めていることが窺えます。
通常このような取り決めは合意後発行するまでにいくつかの条件が設けられ、その期間は取り決めが効力を発揮することはありません。パリ協定の場合、条件が厳しく発行まで時間を要すだろうと予想されていましたが、アメリカ・オバマ大統領の働きかけにより、約1年後の2016年11月4日に異例のスピードで発行されました。
パリ協定発行の条件は、
- 55カ国以上が参加すること
- 世界の総排出量のうち、55%以上をカバーする国が批准すること
の2つでした。
2015年に採択され2016年に発行された後、2020年に本格的に効力を発揮し、各国が動き始めています。
パリ協定の特徴
各国で話題を呼んだパリ協定。これまでの取り組みでは見られなかった、新たな特徴をご説明します。
すべての国にルールを課す
気候変動枠組条約に加盟しているすべての国(197カ国)が温室効果ガス削減の目標や道筋を立て行動することをルールとして課しています。これまでは先進国のみに削減義務を課していたため、このような公平な合意は歴史上初めてであると言えます。
すべての国が削減努力を惜しまないようにする
加盟国である197カ国すべてが、温室効果ガス削減に向けて計画を立て、提出するように呼びかけています。
グローバルストイックテイク:国家間の情報共有
長期目標の達成に向けて各国の取り組みを強化するため、2023年以降は、5年ごとに進捗状況確認と、情報提供をすることが決まっています。このことを「グローバルストイックテイク」と呼んでいます。
パリ協定に至るまでの経緯
現在も効力を発揮し続け、各国が取り組みを行っているパリ条約の、施行に至るまでの経緯を説明します。
1992年に決定した国連気候変動枠組条約に基づいて、1995年から毎年、国連気候変動枠組条約締結国会議(以下COP)が開かれることになりました。その第21回目のCOPで採択された取り決めが「パリ協定」です。囲みに、第3回目のCOPでは「京都議定書」が成立しました。国連気候変動枠組条約は1992年の地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)にて署名が始まり、日本を含む155カ国の署名とともに採択されました。その後、1994年にこの条約は発効されています。
この条約は地球温暖化によって引き起こされるさまざまな自然災害を防止するために作られました。しかしこの条約は名前の通り「枠組み」を設定するだけであり、地球温暖化に関する具体的な内容は、その後定期的に行われる締結国会議(COP:Conference of the Parties)で決まるものとされました。
京都議定書との違い
「パリ協定」とセットでよく耳にするもので「京都議定書」という取り組みがあります。パリ協定はこの京都議定書の後継として作られたものであり、この2つには大きく分けて3つの違いがあります。
- 対象とする期間:京都議定書は2020年までの地球温暖化対策の目標を示しており、パリ協定はそれを引き継ぐ形で、2020年以降の目標を設定しています。
- 対象とする国:京都議定書は先進国(日本、アメリカ、EU、カナダなど)のみを対象としました。一方、パリ協定は先進国・途上国関係なく、加盟しているすべての国を対象としています。
- 発生する義務:京都議定書は「目標の達成」を義務化していたのに対し、パリ協定は「目標の提出」を義務としていました。パリ協定には「目標の達成」を義務としていないため、不完全な条約なのではないか、と議論が続けられています。
主要国におけるパリ協定の動向
本章では、パリ協定を受けた主要国の動向を説明します。
中国の動向
中国は世界最大のCO2排出国であるため、CO2削減のための大きな改革が求められています。パリ協定が採択された当時は中国やインドなどの国が加盟する見込みがあまりなく、パリ協定発行の1つの条件である「世界の総排出量のうちの55%以上をカバーする国が批准すること」という条件を満たせないと言われていました。しかし当時のアメリカ大統領であるバラク・オバマ氏がそれらの国に批准を働きかけた結果、専門家の予想よりはるかに速い2016年11月4日にパリ協定が発行されました。
アメリカ(米国)の動向
アメリカは中国に続き、世界で2番目にCO2を排出している国です。オバマ政権はパリ協定の発効に大きく貢献した一方で、2017年に代替わりしたトランプ政権はパリ協定からの離脱を表明しました。しかしバイデン政権に代わった21年2月にまた復帰を表明しています。
日本の動向
日本はパリ協定を受け、さまざまな支援や取組を行っています。本稿では、例として「二国間クレジット制度(JCM)」「緑の気候基金(GCF)」についてご説明します。
二国間クレジット制度(JCM)
二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)は途上国とともに温室効果ガス削減に尽力し、その成果を両国で分け合う制度のことです。日本側から優れた脱炭素技術や知識などを途上国側に渡すことで、地球規模での地球温暖化対策に貢献でき、さらにその貢献を適切に評価し日本の削減目標の達成を目指しています。日本は今までにアフリカや中南・中東諸国などの、さまざまな国とこの制度を実行しています。
緑の気候基金(GCF)
緑の気候基金(GCF:Green Climate Fund)とは、途上国の温室効果ガス削減(=緩和)と気候変動の影響への対処(=適応)のため、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)に基づく資金給与の制度の運営を任された基金です。2016年に行われたCOP16(第16回締結国会議)にて設立が決定された後、2011年のCOP17にて委託機関として認証されました。2015年に活動を始めています。
参考:緑の気候基金 (Green Climate Fund: GCF) (mofa.go.jp)
まとめ|パリ協定の意義
世界では、産業革命をきっかけに加速した地球温暖化に対し、対策のための議論が繰り広げられてきました。パリ協定はそんな長い議論で得た解決策の大きな1つであり、各国が数値目標を掲げ、地球の未来のために真剣に取組を始めています。
地球で暮らしていく以上、地球温暖化と無関係な人や国は存在しません。すべての国に公平に義務を課したパリ協定は、世界各国が一体となって行う地球温暖化対策の重要性を示すことができたのです。