排出量取引制度とは?仕組みとメリット・デメリットをわかりやすく解説

bannar

排出量取引制度とは、企業ごとに設定した排出枠を、有償または無償で事業者に取引する制度です。炭素税とあわせて、カーボン・プライシングの方法として知られています。本記事では、排出量取引制度とは何か、その仕組みとメリット・デメリットを詳しく紹介していきます。

目次

排出量取引制度とは

排出量取引制度とは、企業ごとに排出枠(温室効果ガス排出量の限度=キャップ)を設定し、その排出枠(余剰排出量や不足排出量)を、有償または無償で事業者に取引する制度です。排出量が上限を上回る事業者は、下回る事業者と排出枠を市場で取引し、自らの実排出量に相当する排出枠の調達義務を負います。

なお、似た用語として、「排出権取引制度」という言葉もありますが、排出量取引制度と意味は同じです。

排出量取引制度の基本構造

排出量取引制度の仕組み

排出量取引制度では、企業は自社努力でCO2削減を行うか、排出枠を購入するかという選択をすることができます。本章では、排出量取引制度の仕組みについて、詳しく説明していきます。

排出量取引制度の流れ

CO2削減目標に基づいて排出枠を決定する

まず、温室効果ガスの削減量を定めます。国や部門は「〇〇年に対してCO2を××%削減する」という目標を立てます。例えば、2020年に「2015年を基準としてCO2を20%削減する」という目標を立てた場合、その国や部門全体には2015年の80%分が「排出枠」として割り当てられます。

各企業に排出枠を分配する

国や部門全体への排出枠が決定されたあとは、各企業や事務所へその排出枠を分配します。

代表的な分配方法は、「グランドファザリング方式」、「ベンチマーク方式」、「オークション方式」の3つです。

グランドファザリング方式は、企業や事務所における過去のCO2排出量をもとに、無償で排出枠を分配する方法です。

ベンチマーク方式は、「ベンチマーク」を定め、そのベンチマークをもとに無償で排出枠を分配する方法です。排出枠におけるベンチマークとは、「単位重量あたりの生産物を製造する際の望ましい温室効果ガス排出量」を意味します。その企業や事務所の生産物や技術、過去の削減努力に応じて定められます。

オークション方式とは、企業や事務所がオークション(入札)によって排出枠を購入する方法です。入札によって排出枠を購入するため、オークション方式だけが有償での分配です。

排出枠内にCO2排出量を収める

排出枠の分配が完了したら、各企業や事務所は、割り当てられた排出枠内にCO2排出量が収まるよう努力します。しかし、削減努力が実り排出枠に余裕ができる企業がいる一方で、分配された排出枠を超えてしまう企業も当然出てきます。

排出枠を超えるなら他社から購入する

ここからが排出量取引制度の本領発揮となります。割り当てられた排出枠を超えてしまう企業は、CO2を十分に削減していて排出枠に余裕のある企業から排出枠を購入できます。すなわち、排出枠を超えてしまう企業や事務所は、「自社努力でCO2を削減する」か「他社や他部門から余った排出枠を購入する」かという2つの選択肢があります。

排出枠と排出量を確認する

最後に、各企業や事務所に割り当てられた排出枠と、実際の排出量が合致しているかを確認します。この「マッチング」と呼ばれる確認作業において、排出枠内にCO2排出量を収めていれば排出量取引制度のルールを守ったことになります。しかし、CO2排出量が排出枠を超えてしまった企業や事務所には罰則が課されます。以上が、排出量取引制度の仕組みです。

排出量取引制度のメリット

排出量取引制度は柔軟性が高く、目標達成のしやすい仕組みです。本章では、排出量取引制度の主要な3つのメリットについて詳しく説明していきます。

企業のCO2削減手段の多様化

排出量取引制度では、自社努力によってCO2排出量を削減するだけではなく、排出枠の売買を認めているため、多様で柔軟性の高いCO2削減手段だといえます。また、景気の動向に応じた選択も可能です。

CO2排出削減費用を最小化

排出量取引制度では、企業は「自社努力によるCO2削減」か「排出枠の購入」かを選択することができます。企業の業種や形態によって、どちらの選択が低コストで済むかは異なります。自社努力によってCO2を削減する場合、省エネ投資を行ったり、よりクリーンなエネルギーを使ったりする必要があるからです。したがって、CO2削減手段を選択できる排出量取引制度では、全体としてのCO2削減費用を最小化することができます。

目標が明確で達成されやすい仕組み

排出量取引制度は、「排出枠が余っている他の企業や事務所から排出枠を購入する」という非常にわかりやすい仕組みです。また、「基準年からCO2を××%削減する」というように、達成される目標が明確であるため、目標が達成されやすい制度だといえます。

排出量取引制度のデメリット

排出量取引制度はメリットの多い仕組みですが、デメリットもいくつか指摘されています。本章では、排出量取引制度のデメリットについて詳しく説明していきます。

カーボンリーケージの問題

カーボンリーケージとは、生産拠点を排出規制が緩やかな海外へ移転することにより、地球全体の排出量がむしろ増えてしまうことを指します。

EUでは既にカーボンリーケージへの対策をしており、2009年にはカーボンリーケージのリスクが高い164の産業部門及び小部門の企業については、他の産業部門よりも温室効果ガスの排出枠を多めに配分することを決定しました。

排出枠の設定が困難

排出枠の設定が難しいことも排出量取引制度のデメリットとして挙げられます。景気変動や省エネ政策などにより、排出枠の需要が変動するためです。

また、排出枠の設定を厳しくした場合、割り当てられた排出枠を下回る企業が減少するため余剰排出枠の費用は高騰し、企業への負担も大きくなります。一方で排出枠の設定を甘くした場合、少しの削減努力で削減目標を達成できるため、売りに出される排出枠は多くなり値下がりします。これにより、全く自社努力をせずに、ただ排出枠を購入した方が安上りというような事態も発生してしまいます。

長期的な低炭素技術の阻害

排出枠を取引する排出量取引制度では、短期的には排出枠の購入が削減目標達成のために合理的な対応策となりますが、長期的には低炭素技術の阻害となるリスクもあります。排出枠を購入することで、企業が保有する原資が奪われ、長期的な低炭素技術の導入や

イノベーションに向けた投資の阻害となる可能性があるためです。

排出量取引制度の事例

日本でも排出量取引制度を取り入れている地域があります。本章では、排出量取引制度の事例を紹介していきます。

総量削減義務と排出量取引制度(東京都)

東京都は2010年4月から「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を導入しました。大規模事業者に対して、CO2排出量の算定、第三者審査機関による検証とCO2排出量の削減を求めています。「2020年までに2000年比の25%のCO2削減」を設定していました。現在は第三計画期間(2020〜2024年度)で、今もなお続いています。

目標設定型排出量取引制度(埼玉県)

埼玉県も東京都と連携して、「目標設定型排出量取引制度」を導入し、制度の普及に努めています。埼玉県がパネラーとして参加した、世界銀行主催の国際会議「Innovate 4 Climate」で本制度を発表しました。大規模事業所を対象に、県の定める目標削減率をおおむね5年間で達成することを求める制度です。「2020年までに2005年比の21%のCO2削減」と設定していました。東京都の制度と同様、現在は第三計画期間(2020年〜2024年度)に入っています。

まとめ|排出量取引制度の普及が期待されている

排出量取引制度は、日本でも少しずつ導入が進み始めている制度です。

多様で柔軟性の高い本制度は、上手く活用すれば温室効果ガスの削減に大きく貢献するでしょう。排出量取引制度の普及が期待されています。

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