京都メカニズムとは?内容や問題点、今後の動向など分かりやすく解説
地球温暖化による影響を、身近な問題として感じている人も多いのではないでしょうか。
1997年、京都議定書で決定された京都メカニズムは、世界で温室効果ガス排出量を削減するために大切な役割を果たしてきました。
この記事では、京都メカニズムの目的や世界の事例、そして2020年以降、どういう形で引き継がれていくかについて、詳しくご紹介します。
京都メカニズムとは?
京都議定書は、地球温暖化に取り組むために世界が決めた最初の目標です。
2008年から2012年までに、先進国全体で温室効果ガスを1990年比で約5%削減することを掲げ、国ごとの温室効果ガス削減目標も定めています。EUは8%、米国は7%、日本は6%削減することを約束し、達成できなかった場合には罰則が適用されます。
京都メカニズムは、この目標を達成するための措置として導入された制度です。
京都メカニズムでは、他国で実施した温室効果ガス排出削減量を、自国の排出削減目標に換算することができます。国内での温室効果ガス削減対策だけでは目標達成ができない場合に、他国でおこなった排出削減量を取引し、目標を達成しやすくすることが目的です。
取引には、温室効果ガスの排出削減量が証明されたクレジットを使います。クレジットを介して、他国と排出削減量を売買することが可能になります。
京都議定書で決められた温室効果ガス削減目標を達成するための主体は、あくまでも国内での取り組みであって、京都メカニズムの利用は補完的であることが求められています。
また2020年以降の世界の気候変動対策として、京都議定書の後を継ぎ、パリ協定が採択されました。詳しい内容については後述しますが、パリ協定では、京都メカニズムに代わる新しい市場メカニズムが検討されています。
京都メカニズムの3つの内容
京都メカニズムには、「共同実施」「クリーン開発メカニズム」「排出量取引」の3つのシステムがあります。そのうち、「クリーン開発メカニズム」は発展途上国で温室効果ガスの削減事業がおこなわれ、「共同実施」「排出量取引」は先進国間でおこなわれる点が大きな違いです。
それぞれ、下記でご説明します。
共同実施
「共同実施」は、先進国間で温室効果ガスの削減事業を実施し、その結果生じた削減量をホスト国から投資国に移転することができる制度です。先進国同士で実施する取り組みなので、京都議定書で決められた先進国全体の総排出削減枠に影響がでないという特徴があります。
クリーン開発メカニズム
「クリーン開発メカニズム」では、先進国が発展途上国内で温室効果ガスの削減事業を実施し、そこで得られた削減量の一部を、事業を実施した先進国の排出削減目標の達成に充てることができます。
先進国は、削減量を目標達成のために利用することができ、途上国は、温室効果ガスの排出削減対策に必要な投資と技術提供を得ることができるメリットがあります。途上国への持続可能な開発援助につながる制度として、再度、注目が集まっています。
排出量取引
「排出量取引」は、プロジェクトを実施せず、温室効果ガスの排出削減枠を先進国間で売買できる制度です。「共同実施」同様、京都議定書で定められている先進国全体の排出枠に影響を与えることがありません。
対象となるクレジット
京都メカニズムには、排出の発生起源ごとに4つのクレジットがあります。
- AAU
- RMU
- ERU
- CER
それぞれご説明します。
AAU
AAU(Assigned Amount Unit)とは初期割当量、つまり京都議定書において各国に割り当てられた排出枠のことです。
RMU
RMU(Removal Unit)は、国内吸収源活動により発行されたクレジットのことを言います。これは、植林により吸収された量がクレジットとして発行されたものです。
ERU
ERU(Emission Reduction Unit)は、共同実施によって発生したクレジットのことです。先進国間でおこなったプロジェクトから得られた温室効果ガス削減量が、クレジットとして発行されます。
CER
クリーン開発メカニズムによって生じたクレジットをCER(Certified Emission Reduction)と言います。先進国が発展途上国でプロジェクトを実施することで得られた温室効果ガス削減量を双方で分け合い、クレジットとして発行されます。
上記4つのクレジットの総和が、国の総排出枠です。京都議定書の目標達成には、この総排出枠が実際の温室効果ガス排出量と同じ、もしくはそれ以上である必要があります。
京都メカニズムの具体的なプロジェクト
では、京都メカニズムを利用して、世界でどのような取り組みがおこなわれているのでしょうか。ここでは共同実施とクリーン開発メカニズムのプロジェクト事例を取り上げ、その効果についても説明します。
共同実施 フランス マルヌ・ラ・ヴァレの事例
ドイツが投資国となり、2008年から2012年の4年間、フランスのマルヌ・ラ・ヴァレにある工場で実施されたプロジェクトです。アルファルファを乾燥させるために使っていた石炭に木片を混ぜることで、二酸化炭素の排出量を384,901トン削減することに成功しました。
また、石炭の使用量を削減したことで、工場周辺の土壌や水質の汚染を低減し、生物多様性の保全にも貢献しています。
クリーン開発メカニズム マレーシアの事例
日本の建設会社が実施した、マレーシアのマラッカ市にある廃棄物最終処分場でのクリーン開発メカニズムのプロジェクトです。2007年から10年を予定して実施されました。
最終処分場の埋立地で発生したメタンガスを回収。このメタンガスを火力発電燃料の一部に利用してガスエンジン発電設備で発電することで、温室効果ガス排出量を59.3万トン削減しました。
温室効果の高いメタンガスの大気中への排出量と、メタンガスを使った発電により二酸化炭素排出量の削減を実現しています。マレーシア政府の掲げる再生可能エネルギー政策にも貢献するなど、地球温暖化だけでなく、社会面でも貢献した事例です。
京都メカニズムの問題点
京都議定書の目標達成に向けて、京都メカニズムは一定の役割を果たしながらも、いくつかの問題が指摘されていることも事実です。ここでは課題が大きいと考えられているクリーン開発メカニズムを取り上げながら、説明します。
クレジット発行に至るまでの期間が長い
プロジェクトの審査を開始してからクレジットが発行されるまで、約2年半もの長い期間がかかってしまいます。発行まで多くのステップを踏まなければなりません。
審査が厳しいため、有効性があると審査を受けたとしても最終審査で通らないこともあり、見通しを立てにくいものになっています。
途上国の持続的な発展への貢献度合い
プロジェクト内容が、二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出削減対策に偏っている問題があります。発展途上国の持続可能な発展に貢献すると期待されていた省エネ製品や技術、インフラを提供するプロジェクトは、全体の2割です。
また、プロジェクトのなかには、発展途上国への技術移転ができていないものがあることも指摘されています。クリーン開発メカニズムの本来の目的である、発展途上国の持続可能な発展という観点で制度を見直す必要があります。
地域に偏りがある
登録されたプロジェクトが、一部の地域に偏っていることも問題です。
55カ国で実施されながらも、温室効果ガスの排出削減量を大きく見込めるアジアや南米の一部の発展途上国に、登録プロジェクトが集中。特に中国やインド、ブラジルなど経済活動の大きい地域が多くを占めていて、アフリカなど後発開発途上国の多くでは、プロジェクトが全く実施されていないという課題があります。
今後の動向
2020年以降の新たな枠組みとして、京都議定書に代わりパリ協定が採択されました。パリ協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることを目標とし、長期的には「脱炭素化」を目指す革新的な条約です。
京都メカニズムの仕組みは、パリ協定にどのように引き継がれるのでしょうか。
2013年以降の京都メカニズム
京都議定書で設けられた2013年から2020年の第二約束期間でも、京都メカニズムは導入されています。ただし、この第二約束期間では、2013年までの第一約束期間で余剰に削減したAAU(初期割当量)を繰り越すことができません。
また、第二約束期間に参加しない日本は、クリーン開発メカニズムに参加し、クレジットを獲得することはできますが、クレジットを使って他国と売買する排出量取引をおこなうことはできなくなりました。
パリ協定においては?
パリ協定では、京都メカニズムの後継として市場メカニズムが第6条に規定されました。市場メカニズムとは、他国でおこなった温室効果ガスの排出削減量を、自国の排出削減量へカウントする仕組みで、「協力的アプローチ」「持続可能な開発メカニズム」「非市場アプローチ」の3つのメカニズムの導入が決まっています。
しかしながら、COP25ではこの仕組みの詳細について合意ができなかったため、次回のCOP26へ先送りされました。
パリ協定における市場メカニズム
協力的アプローチ
協力的アプローチは、それぞれの国が作った独自のルールの中で、削減できた温室効果ガス排出量をクレジットや排出枠として国際的に移転・獲得できる仕組みです。具体的な事例として、日本が構築している二国間クレジット制度があります。
これは日本の低炭素技術や製品などを発展途上国へ普及し、そこで得られた温室効果ガスの排出削減量を定量的に評価して、日本の削減目標に活かす仕組みです。
発展途上国は、初期投資を抑えながら低炭素技術や製品を手に入れることができるので、地球温暖化対策に効果的に取り組むことができるというメリットがあります。
クリーン開発メカニズムは「持続可能な開発メカニズム」に
持続可能な開発メカニズムは、京都議定書で規定されたクリーン開発メカニズムと似ている点が多くあります。大きな論点としては、京都議定書のクリーン開発メカニズムで発行されたクレジットを、持続可能な開発メカニズムでの排出削減量に使うことができるかどうかです。
現在、クリーン開発メカニズムで発行されたクレジットのうち、未使用分は約8億トンだと試算されています。また、移管した場合、先進国と発展途上国の双方で削減した排出量をカウントする二重計上が生じるため、避けるためにどのように調整するかも論点になっています。
参考資料:https://www.wwf.or.jp/activities/data/20191125Yamagishi.pdf
非市場アプローチ
非市場アプローチは、一部の中南米諸国が市場のメカニズムを用いて気候変動対策をおこなうことに反対して、立ち上げた制度です。
緩和、適応、資金、技術支援、能力構築などのあらゆる項目について検討されていますが、具体的な内容については、不明確な部分が多くあります。
市場メカニズムはどうなるのか
これら3つの市場メカニズムは、世界で温室効果ガス排出削減を推し進めるための有効な手段であることは確かですが、合意形成には上述の通り、多くの課題が残っています。
新型コロナの影響で2021年11月に延期されたCOP26は、世界の気温上昇を1.5℃未満に抑えるため、さらなる排出削減目標が各国に求められる重要な会議でもあります。
そこでは市場メカニズムを含め、パリ協定で先送りされた項目についても議論がおこなわれることから、今後の動向に注目が集まっています。