営農型太陽光発電とは?メリットと設置の手順を詳しく紹介
営農型太陽光発電とは、ソーラーシェアリングとも呼び、広大な農地を活かして田畑の上部に太陽光パネルを設置することで、農業生産と電力売電の両方を可能にする取り組みです。手続きが面倒なものの、農業と発電によるダブルインカムを実現できます。本記事では、営農型太陽光発電とは何か、農地転用との違いとメリット・デメリットを解説し、設置までの5つの手順・取り組み事例を紹介します。
営農型太陽光発電とは?
営農型太陽光発電とは、農地の上空部分の空間を有効活用して、支柱の上に太陽光パネルを設置し、農業をしながら発電もおこなうことです。太陽光を作物栽培と発電に利用しているため、ソーラーシェアリングとも呼ばれます。太陽光パネルを設置した農家は、発電した電気をビニールハウスなどの施設に利用したり、通常の農業による収入に加えて売電によって収入を得たりできます。ただし、農地の日当たりや農作業のしやすさを妨げないように設置の仕方を工夫する必要があります。
営農型と農地転用型の違い
営農型は、農業をしながら発電もおこなう方法です。基本的に、設置を考える際に農業を続ける意思があるなら、営農型となります。定期的な許可更新申請が必要なので、忘れないようにしましょう。
一方、農地転用型は、農地を宅地に転用した上で太陽光パネルを設置する方法になります。こちらの場合は、農業を続ける必要がありません。また、国や地方自治体から農地転用の許可が一度下りれば、営農型のような定期的な許可更新申請は必要ありません。農業をやめたいと考えているなら農地転用型を検討しましょう。ただし、都道府県が定める農業振興地域にあたる場合はその土地を農地以外の目的で利用することが原則禁止されています。そのため、農業を続ける意思がなくとも所有する土地が農地転用不可の場合は、ほかの人に農業を任せるなどして営農型太陽光発電を選ぶしかありません。
営農型太陽光発電のメリット
営農型太陽光発電をおこなうことには、さまざまなメリットがあります。再生可能エネルギーであるため環境にやさしいということにとどまらず、農家にとってもメリットがいくつかあるので、1つずつ見ていきましょう。
継続的な売電収入
電動農機具やビニールハウスの空調など農業設備に電気を利用する場合には、太陽光発電による電力をその場で利用でき、経費削減につながります。さらに、一般家庭で太陽光発電を設置する場合と同様に、自家利用した上で余った電力は電力会社に買い取ってもらうことができます。このときFIT制度を利用することもできます。
つまり、通常の農業による収入に加えて、発電による収入も得ることができるのです。加えて、農業は収穫の時期にしか利益をあげられないのに比べ、太陽光発電による利益は年間通じたものなので安定してると言えます。
荒廃農地の活用
現在日本では、農家の高齢化や労働力不足などにより、耕作が放棄され荒れ果ててしまう農地が増加しています。一方、食料自給率の確保といった観点から国や地方自治体による農地転用の制限が厳しいため、実際には耕作がおこなわれていない土地が荒廃農地として存在するのです。ここで営農型太陽光発電をおこなえば、余っている荒廃農地を有効活用することができます。
また、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという日本の目標達成の一助となるのではと営農型が注目され、農地転用規制も見直されています。例えば以前は、営農型太陽光発電を始める場合、通常の農家の平均収入の8割以上の収入を確保する必要がありましたが、現在は農地が適正かつ効率的に利用されていれば営農型太陽光発電が可能です。
太陽光発電の電力以外の活用
発電以外の役割で、太陽光パネルが農業にメリットをもたらす場合もあります。日光が確保できるように設置するとは言っても、太陽光パネルの下には影ができます。この結果、収穫時に作業が楽になったり、地面の乾燥が防げたりするのです。
営農型太陽光発電のデメリット
このように始めたあとのメリットがいくつかある一方で、そもそも始めることが手間であるという点は否めません。そこで、始める上でどのようなことをしなければいけないのか見ていきましょう。
一時転用許可の手続きをしなければならない
営農型太陽光発電は、転用不可と定められている土地でもおこなうことができます。また、規制緩和により、農業を適切に効率よく継続していれば問題ありません。ただし、太陽光パネルの支柱の基礎部分が一時転用にあたるため、その許可申請は必須となります。
定められた要件を満たさなければならない
この一時転用許可には、満たすべき条件がいくつかあります。
まず、一時転用期間が一定の期間内でなければなりません。荒廃農地を利用予定といった特殊な条件を満たす場合は10年以内ですが、その他の場合は3年以内でなければなりません。ただし、再許可申請は認められています。
次に、きちんと農業をおこない農作物の品質を保っており、通常の農家の平均収入の8割以上の収入を確保している必要があります。しかし、荒廃農地なら最後の条件は免除されます。
ほかにも、日光が十分確保できる環境か、農作業は可能かなど確認しなければなりません。
そして、年に1度の報告でこれらの条件を満たしていなかった際には、太陽光パネルを撤去することが求められます。
営農型太陽光発電を始める手順
営農型太陽光発電を始める上でいくつか注意すべき点があることが分かりました。この章では、太陽光発電の設置までどのような準備や手続きが必要なのかを見ていきましょう。
1.地域の理解を得る
太陽光発電の設置によって日陰が増えたり、景色が変わったりといった周りへの影響が少なからずあります。そのため、事前に地域住民への説明をおこない、納得してもらってから進めていかなければなりません。
2.営農計画(太陽光発電導入の計画)を策定する
導入にあたって農地を一時転用することに対する許可をもらう必要があります。そのために、太陽光発電を設置する目的をはっきりさせ、その土地の日照条件や面積などを調査します。条件によっては設置ができない場合もあるので、しっかりと調べましょう。
この調査をふまえて、太陽光発電導入の計画をおこなっていきます。同時に、営農計画も進めていきます。先述のように、農業で得る収入が少なかったり、品質の悪い作物を生産したりする場合は、太陽光発電設置が認められません。そのため、農業における計画も提出する必要があります。
3.営農型発電設備の設計図&見積書を作成する
計画が固まったら、一時転用申請の際に必要な書類の一つである営農型発電設備の設計図作成に移ります。システム設計と建設設計の両面から検討をおこないます。
また、導入するときにかかる費用を算定し、見積書を作成します。
4.各種申請手続きをおこなう
農地の一時転用を許可してもらうためにはまず、経済産業省に事業計画認定申請をします。この認定には1〜2か月かかる場合もあるので早めに申請をしておきましょう。
同時に、電力会社と電力受給契約の申込みも進めましょう。
次に、市町村の農業委員会に対して転用の申請書、先述の計画書や設計図、そして農業への影響を予測したものなどを提出しなければなりません。
そのほかFIT制度を利用して電力を売りたい場合は、上記の経済産業省や電力会社への申請が必要です。
5.太陽光発電に関する手続きと設置をおこなう
申請が通り太陽光発電設置の許可がおりたら、いよいよ設置に着手します。必要な機器の発注や手続きをおこない準備が整ったら、実際に設置するための詳細図面を完成させたり、さらに正確な見積りを出したりします。これらに従って、設置工事や太陽光パネルの組み立てをして完成です。
営農型太陽光発電の取り組み事例
それでは、営農型太陽光発電が実際にどのような場所でおこなわれているのかみていきましょう。
ハウステンボス(長崎県佐世保市)
長崎県佐世保市にあるテーマパーク、ハウステンボスは日本初の自家消費型かつ営農型の太陽光発電を設置しました。温室効果ガス排出量削減はもちろんのこと、電力と農業による生産物の地産地消を目指しており、ハウステンボス内のレストランなどで使用するブルーベリーの栽培をしながら発電をしています。
トペコおばら(広島県安芸高田市)
広島県安芸高田市で農業生産事業をおこなう株式会社トペコおばらは、クリーンエネルギー発電所や太陽光付規格住宅などを取り扱う株式会社フィットとともに営農型太陽光発電事業をおこなっています。麦畑に設置した太陽光パネルで作った電力を売ることなく、隣接する水耕栽培ハウスで消費してしまうという完全な自家消費型をとっていることが特徴です。
いすみ自然エネルギー(千葉県いすみ市)
2014年3月千葉県いすみ市にて、地域密着型エネルギー事業会社であるいすみ自然エネルギー株式会社が設立されました。市民が立ち上げたこの会社は、ブルーベリー観光農園や庭園に太陽光パネルを設置しています。今後は、市内の耕作放棄地や空き地を活用していく予定です。
営農型太陽光発電の導入検討を
営農型太陽光発電とは、ソーラーシェアリングとも呼び、広大な農地を活かして田畑の上部に太陽光パネルを設置することで、農業生産と電力売電の両方を可能にする取り組みです。デメリットやいくつか必要な手続きはあるものの、農業による収入に加えて売電による収入を得られたり、荒廃農地を活用できたりとさまざまなメリットがあります。営農型太陽光発電の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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