SBT認定企業とは?業種別21社と、中小企業が参加するための手順を徹底解説

bannar

SBTと呼ばれる国際イニシアチブをご存知でしょうか。「Science Based Targets」の頭文字を取った言葉であり、日本語では「科学的根拠に基づいた(温室効果ガス排出を削減するための)目標」と訳すことができます。別名は「SBTi」です。これは、参加する企業に科学的根拠に基づいた温室効果ガスの削減目標を設定することを求めるもので、参加には企業価値を高める、ESG投資を受けやすくなるなどのメリットがあります。

このようなイニシアチブは、高い目標設定が可能な大企業しか参加できないのでは、と考える方も多いでしょう。しかし、SBTには中小企業向けのものもあり、企業の規模にかかわらず参加することができます。本記事では、国内企業がSBT認定を取得した事例と、参加するための手順を詳しく解説していきます。

目次

SBTとは?

SBTは、2015年に、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、WWF(世界自然保護基金)、UNGC(国連グローバルコンパクト)、WRI(世界資源研究所)の4つの団体により共同で設立されました。企業が、産業革命時期と比べ、地球の平均気温上昇を2℃未満にするという「パリ協定」の「2℃目標」を実現するための目標を設定することを推進するイニシアチブです。具体的には、毎年2.5%以上の温室効果ガス排出量削減が義務付けられています。

企業は、5〜15年先の温室効果ガス削減目標を設定してSBT事務局に提出し、その妥当性が確認されることでSBTに参加することができます。

SBTでは、GHGプロトコルに基づき、温室効果ガスの排出をScope1、Scope2、Scope3の3つに分けています。

 Scope1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)

 Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

 Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

SBT認定は中小企業も受けられる

このような国際イニシアチブには、条件が厳しく大企業しか要件を満たすことのできないものもありますが、SBTの認定は事業の規模にかかわらず全ての企業が受けられます。それは、中小企業向けのSBTが存在するためです。表1の通り、この中小企業向けのSBTでは、通常のSBTと比較し削減対象範囲や費用などの条件が緩和されています。実際に、従業員数80人の小規模な企業がSBT認定を取得している例もあります。

表1

カーボンニュートラルをめざすSBTには中小企業も参加できますか。 | ビジネスQ&A | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] (smrj.go.jp)より引用

SBT認定企業は147社(2022年3月時点)

2022年3月時点で、SBTの認定を受けている企業は147社です。世界的に見ると⾷料品メーカーが多いようですが、日本では、電気機器、建設業に携わる企業が目立ちます。

SBT認定企業一覧(日本版)

SBTには、事業や従業員数の異なるさまざまな企業が参加しています。本項では、実際にSBT認定を取得した企業を21社紹介していきます。

大和ハウス

大和ハウス工業株式会社は、2018年8月にSBT認定を取得しました。同社は、環境戦略「Challenge ZERO 2055」を策定し、自社活動と製品使用における温室効果ガス削減の対象範囲を日本国内から世界まで拡大する、材料調達の際に供給業者と削減目標を共有するといった目標を設定しています。

参考記事

>>温室効果ガス削減に関する国際的イニシアチブ「SBT」認定を取得|大和ハウス工業のリリース|会社情報 About Us|大和ハウスグループ (daiwahouse.com)

日清食品

日清食品ホールディングス株式会社は、2020年6月にSBT認定を取得しました。同社は、環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定し、省エネの推進や再生可能エネルギーの使用率向上に取り組んでいます。

参考記事

>>日清食品グループの温室効果ガス排出削減目標が「Science Based Targets (SBT) イニシアチブ」の認定を取得しました | 日清食品グループ (nissin.com)

帝人

帝人は2021年12月、国内化学会社で初めてSBT認定を取得しました。同社は、CO2排出量を2050年度までに実質ゼロにする、また2030年度までに削減量が総排出量を上回るという目標を掲げています。このSBTの認定を受けて、さらに石炭火力発電の転換、再生可能エネルギー化の推進、エネルギー効率化・省エネ化を加速させていく予定です。

参考記事

>>帝人 GHG削減目標がSBT認定、国内化学会社で初 – 日刊ケミカルニュース (chemical-news.com)

花王

花王株式会社は、2019年7月にSBT認定を取得しました。同社は2030年までに22%のCO2排出量を削減するという目標を掲げており、達成に向けて2019年4月にESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)を策定しています。

参考記事

>>花王 | 花王の温室効果ガス削減目標がSBTイニシアチブの認定を取得 (kao.com)

ESG

アステラス製薬

アステラス製薬株式会社は、2018年11月にSBT認定を取得しました。同社は世界の人々の健康に貢献する製薬企業を目指しており、2015年比で温室効果ガスの排出を30%、売り上げ当たりの温室効果ガスの排出量を20%削減することを目標に設定しています。

参考記事

>>ニュース | アステラス製薬 (astellas.com)

YKK AP

YKK AP株式会社は、2020年に温室効果ガス排出量の削減目標を30%から50%に改定し、2021年2月にSBT認定を取得しました。同社は、再生可能エネルギー投資を従来の約3倍に拡大する、製造所間での省エネに関する情報交換、生産設備の見直しなどを2030年に向けた計画に含めています。

参考記事

>>国際的イニシアチブ「SBT(Science Based Targets)」認定を取得 | 2021 | ニュースリリース | YKK AP株式会社

日本板硝子

日本板硝子株式会社は、2018年比で温室効果ガス排出量を21%削減するなどの目標が評価され、2019年10月にSBT認定を取得しました。具体的な方法としては、ガラス製造工程におけるエネルギーの重油から天然ガスへの切り替え、照明のLED化、廃熱利用などが挙げられます。

参考記事

>>CO2削減目標 (nsg.co.jp)

住友電気工業

住友電気工業株式会社は、2021年3月にSBT認定を取得しました。同社は、2018年度から5カ年計画で進めている環境保全活動「アクションECO-22V」運動を推進するなど、独自の活動を積極的におこなっています。2020年度には、環境に配慮した製品の生産により34万トンの温室効果ガスを削減しました。これは、当初掲げていた14万トンの目標を2.5倍近く超えています。

参考記事

>>温室効果ガス削減目標の「SBTi」認定取得及び「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同について|プレスリリース|企業情報|住友電工 (sei.co.jp)

日立建機

日立建機グループは、2019年5月にSBT認定を取得しました。同社は2020年、2010年度比で水使用量を36.8%削減し、さらに83.3%の再資源化率を達成しています。2030年に向けての目標は、水再生利用の高度化と地域への影響の最小化、再資源化率99.5%以上です。

参考記事

>>環境目標 – Hitachi Construction Machinery (hitachicm.com)

富士フイルム

富士フイルムホールディングス株式会社は、2020年7月にSBT認定を取得しました。同社は2017年に「サステナブルバリュープラン(Sustainable Value Plan)2030」を策定し、環境保全活動に取り組んできました。具体的には、原材料調達から廃棄に至るまでの製品ライフサイクル全体でのCO2排出削減目標を2013年度比で45%、CO2削減効果の高い製品・サービスの提供によるCO2排出削減目標を9,000万トンに設定しています。

参考記事

>>富士フイルムホールディングス 2030年度CO2排出削減目標を引き上げ | 富士フイルムホールディングス (fujifilm.com)

日産自動車

日産自動車株式会社は、2021年8月にSBT認定を取得しました。同社は電動車両と電動化技術の普及促進に取り組んでおり、2010年には世界で初めてグローバルに量産型EV「日産リーフ」を発売開始しています。

参考記事

>>日産自動車、カーボンニュートラルを目指しRace to Zeroキャンペーンに参加 (nissannews.com)

ニコン

株式会社ニコンは2019年11月、2030年度に向けた温室効果ガス削減目標を設定しSBT認定を取得しました。同社は他にもRE100やTCFDなどさまざまな国際イニシアチブに参加しており、今後も製品の低炭素化や輸送の効率化に取り組み続ける予定です。

参考記事

>>Nikon | ニュース | 報道資料:ニコングループの温室効果ガス削減目標が「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」の認定を取得

アシックス

アシックスは2018年、世界のスポーツメーカーで初めてSBT認定を取得しました。同社はこれまで、事業所の新設・改修の際にエネルギー効率を見直す、再生可能エネルギーの利用率を向上させるなどの取り組みをおこなっています。アメリカの事業所では、EnterSolar社と提携して、ミシシッピ州にある配送センターに1MWの屋上ソーラーパネルを設置しました。

参考記事

>>エネルギー効率とCO2排出量 | 株式会社アシックス コーポレートサイト (asics.com)

大日本印刷

大日本印刷株式会社は、2021年5月にSBT認定を取得しました。同社はこれまで、工場の空調や動力の省エネ、製造ラインの運用改善、熱源機器の効率化に取り組んできました。これらの活動が功を奏し、2030年度に温室効果ガス排出を25%削減する目標を前倒しで達成する見込みが立っています。

参考記事

>>「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」の更新認定を取得 | ニュース | DNP 大日本印刷

日本郵船

定期船事業、航空運送事業、物流事業に携わる日本郵船株式会社は、2018年6月にSBT認定を取得しました。同社は、新中期経営計画「Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green」を策定し、運航データを利用した配船、運航の効率化をおこない環境保全に貢献しています。

参考記事

>>温室効果ガス排出削減目標がSBT認定を取得|日本郵船 (nyk.com)

国際航業

国際航業株式会社は、公共コンサルタント事業やインフラマネジメント事業に従事する企業です。同社は、テレワークの導入やマイカップ・マイボトル運動に継続的に取り組み、2021年9月にSBT認定を取得しました。今後はSBTの達成に向けて、ガソリン車の廃止やオフィス電力を再生可能エネルギーでまかなう等の活動を進める予定です。

参考記事

>>持続可能な地球への取り組み(SDGsへの取り組み)|国際航業株式会社 (kkc.co.jp)

NTTデータ

株式会社NTTデータは2020年6月、2030年に向けた温室効果ガス排出削減目標を策定しSBT認定を取得しました。同社はこれまで、IT技術を用いて社会全体の温室効果ガス排出削減を目指す「グリーンITソリューション」の推進など、IT業界のSDGsに貢献してきました。

参考記事

>>温室効果ガス排出削減目標がScience Based Targetsの「1.5℃目標」の認定を取得| NTTデータ (nttdata.com)

ファミリーマート

コンビニエンスストア業界で初めてSBT認定を取得したのは、株式会社ファミリーマートです。同社は「ファミマecoビジョン」と称した2030年および2050年に向けた温室効果ガス削減目標を設定し、プラスチック包装や食品ロスの削減に取り組んでいます。

参考記事

>>ファミリーマートの温室効果ガス削減目標が 「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」の認定を取得 ~コンビニエンスストア業界で初めての認定~|ニュースリリース|ファミリーマート (family.co.jp)

三菱地所

三菱地所グループは、事業での温室効果ガス排出の総量(Scope1+2+3)を、2017年比で、2030年までに35%、2050年までに87%削減することを目標に掲げています。この目標がパリ協定の目標と合致したとSBTイニシアティブより認められ、2019年4月にSBT認定を取得しました。

参考記事

>>イニシアティブへの参加 | 三菱地所 サステナビリティ (mec.co.jp)

ベネッセコーポレーション

株式会社ベネッセコーポレーションは、リサイクル活動や論文コンクールといった子どもたちへの「環境教育」事業などを通じて、教育分野から地球環境の保護に取り組んでいます。同社も、積極的な事業が評価され2021年4月30日にSBT認定を取得しました。

参考記事

>>ベネッセコーポレーションが温室効果ガス削減目標に関して「SBTイニシアチブ」での認証取得|株式会社ベネッセホールディングスのプレスリリース (prtimes.jp)

エコワークス

エコワークス株式会社は、⽊造注⽂住宅の新築を主に請け負う建設会社です。同社は、温室効果ガス削減に関する2050年・2030年目標を設定し排出の少ない住宅を建設している、環境問題への意識が高い企業です。従業員数80人の小規模な企業ですが、SBTに参加し、中小企業が環境問題に取り組むためにリーダーシップをとっています。

参考記事

>>エコワークス株式会社|SBTの設定成果報告

SBT認定を受ける手順

SBTの認定を受けるには、具体的にどのような手順を踏めば良いのでしょうか。本項で順を追ってご説明します。

  1. SBT認定を受けるための基本要件

SBTの認定を受けるためには、温室効果ガスの削減目標に関する基本要件を満たす必要があります。まず、SBTが企業に対して要求する温室効果ガス排出量削減の基準は以下の2点です。

  • 地球温暖化による気温上昇が2℃を下回る
  • 地球温暖化による気温上昇を1.5℃未満に抑えることができる

また、企業の行動や定める目標についても、以下のような基準があります。

  • 上記の削減の基準に関して、2℃を下回る基準の場合は毎年2.5%、1.5℃未満に抑える基準の場合は毎年4.2%の温室効果ガスの排出削減を目標とし、5~15年先の⽬標を設定する
  • 対象範囲には、事業者だけでなく他社も含めたサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を含める
  • SBT認定取得後の、温室効果ガス排出量や削減量、削減活動の成果や進捗を開示する
  1. SBT事務局にコミットメントレターを提出

コミットメントレターは、2年以内にSBTの目標を設定するという宣言書のことです。まず、初めに事務局にSBTに参加したいという意思表示をします。

コミットメントレターはこちらからご参照ください。

>>SBT-Commitment-Letter.pdf (sciencebasedtargets.org)

  1. SBT事務局に目標を提出する

SBTの定める基準と合うように目標を設定します。目標の設定方法や内容はSBT事務局のマニュアルに従いましょう。

  1. 提出した書類が基準を満たし認められれば、SBT認証取得

SBT事務局の専門チームによって目標の検証が行われます。検証の結果、目標が合理的で科学的に実現可能であると認められると、SBTの認定を取得することができます。

まとめ|SBT認定は全ての企業が取得可能

SBTの認定は、大企業に限らずすべての企業が取得可能です。SBTの認定を受けるために、今回挙げた事例や認定を受ける手順を参考にして、まずは事務局に宣言書を送りましょう。

SBTのトップページはこちらです。

>>Ambitious corporate climate action – Science Based Targets

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