意見が分かれるアメリカの原子力発電
アメリカでは、原子力発電をめぐって意見が分かれています。
現在、アメリカの各州が化石燃料の使用を大幅に削減するよう迫られています。しかし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだけでは、十分な電力を確保できないのではないか、という声も挙がっています。
原子力発電は環境問題を解決する糸口となるのか?
温室効果ガスの排出量を削減し地球温暖化を防ぐために、各州が石炭、石油、天然ガスからの転換を進める中、化石燃料依存から抜け出す糸口として、原子力発電が浮上してきています。
マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツが立ち上げた企業や日立GEニュークリア・エナジーなどが、電力網を補完できる小型で安価な原子炉を開発していることから、原子力に新たな関心が集まっています。
しかし、原子力発電には深刻な問題があります。1986年に起きたチェルノブイリ原発事故が物語っているように、放射性廃棄物は何千年も危険な状態で残る可能性があるということです。事故から35年以上が経つ今でも、放射能性廃棄物は人々の生活を脅かしているそうです。
また一方で支持者たちは、世界がCO2を排出する化石燃料からの脱却において、原子力発電は電力供給を安定させるために不可欠であると述べています。
このような原子力発電をめぐる対立は、ヨーロッパでも同様に繰り広げられています。
例えば、ドイツでは原子炉を段階的に廃止していく一方で、フランスでは原子力に固執し、さらなる原子炉の建設を計画しています。
原子力発電の利益とリスク
バイデン政権は、国のエネルギー網における炭素系燃料の減少を補うためには、原子力が必要だと考えています。昨年可決された総額1兆ドル規模のインフラ投資法案では、先進的原子炉の実証プログラムにそのうちの約25億ドルが割り当てられることになりました。
アメリカ・ジョージア州では、原子炉の拡張により、60〜80年間は十分なクリーンエネルギーが供給されるとしています。また、ニューハンプシャー州でも、原子力発電は、安価に環境問題を解決するうえで不可欠だと考えられています。アラスカ州とメリーランド州のエネルギー機関でもまた、小型モジュール式原子炉の建設を計画しています。
しかし、原子力発電には、ほかの低炭素エネルギーにはない大きなリスクがあると懸念する科学者も少なくありません。原子力について研究しているエドウィン・ライマン氏は、「新しい小型の原子炉は、従来の原子炉よりも建設費が安いかもしれませんが、より高価な電気を生産することになるでしょう」と述べています。また、コスト削減と市場競争のために、産業界が安全性やセキュリティに手を抜くことも考えられると主張しています。
また、アメリカには有害廃棄物の管理や処分に関する長期的な計画がありません。このままでは、廃棄物や原子炉を狙った攻撃や事故のリスクがあるとライマン氏は指摘しています。ペンシルバニア州のスリーマイル島、チェルノブイリ、東日本大震災による福島の原発事故はまさにその教訓といえるでしょう。
ニューヨーク州のエネルギー研究開発局のドリーン・ハリス社長兼CEOは、「今後、ニューヨークのエネルギー網は、風力、太陽光、水力発電が主流になるだろう」と語っています。
ネバダ州もまた、原子力発電を実行可能な選択肢とは考えていません。その代わりに、エネルギー貯蔵や地熱エネルギーに可能性を見出しています。ネバダ州においてエネルギー問題を担当しているデビッド・ボブジーン氏は、「短期的な利益に焦点を当てたとしても、原子力の長期的な問題を無視することはできない」と声明で述べています。
参考記事:https://www.delawarepublic.org/npr-headlines/2022-01-18/the-u-s-is-divided-over-whether-nuclear-power-is-part-of-the-green-energy-future
https://mainichi.jp/english/articles/20220118/p2g/00m/0sc/055000c