SBTってなんのこと?概要やメリット・デメリット、加盟の仕方を解説
加速する地球温暖化に歯止めをかけるべく、世界中で取り組みが行われています。SBTはその取り組みの1つであり、企業間で話題の国際イニシアチブです。本記事では、取り組みの内容やメリット・デメリット、加盟方法、そしてほかの国際イニシアチブとも比較していきます。
SBTとは
「SBT」とは、「Science Based Targets」の頭文字を取った言葉であり、日本語では「科学的根拠に基づいた(温室効果ガス排出を削減するための)目標」と訳すことができます。「SBTi」という言い方もありますが、意味するものは同じです。これは温室効果ガスの削減目標を設定することを求める国際イニシアチブの1つです。SBTに加盟している企業は5~15年の間の削減目標を設定し、削減に取り組んでいます。SBTでは企業は毎年温室効果ガスを2.5%以上削減することが必須となっていますが、毎年4.2%削減することが推奨されています。
SBT設立の背景
2015年のCOP21(第21回締約国会議)で採択されたパリ協定では「世界平均気温を産業革命以前と比べ2℃より低く抑え、1.5℃に保つ努力をすること」を求めており、その目標を達成するために設立されたのが「SBT」です。SBTは同じ年の2015年に、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、WWF(世界自然保護基金)、UNGC(国連グローバルコンパクト)、WRI(世界資源研究所)の4つの団体が共同で設立しました。現在はこれらを中心に、削減目標を設定する企業の認定が行われています。
SBTの削減対象
SBTの削減対象は、その企業自らが排出している温室効果ガスだけではありません。その事業の活動に関わるすべて(原材料の調達・製造・物流・販売・廃棄までの一連の流れ:サプライチェーン排出量(Scope1,2,3))の削減が対象となります。
Scope1とは
企業自らが排出する温室効果ガスを指しています。
Scope2とは
他社から供給された電気・熱(蒸気)の使用にともなう間接排出のことを指します。
Scope3とは
Scope1,2以外の間接排出のことであり、企業活動に関連する他社の排出のことを指します。Scope3排出量がScope1+2+3の合計の40%以上を占めた場合、野心的なScope3目標の設定が必要となります。
SBTの認定基準
SBTの認定の基準について解説します。
範囲(バウンダリ)
企業のScope1,2をカバーしており、すべての温室効果ガスが対象となります。親会社ではなく子会社も独自に設定することが可能ですが、両方が目標を提出している場合は、親会社の目標に子会社の排出量を含むことになります。
Scope1,2については、1つ前の章で解説しています。
基準・目標の年
基準年は、データが存在する最新の年であることが推奨されています。未来の年の設定は認められていません。目標年は、目標を提出した地点から5~15年です。また、既に達成している目標は、SBTとしては認定されません。
目標水準
世界の平均気温が2℃を十分に下回る水準に抑える目標設定が必須となっていますが、1.5℃を下回ることを推奨しています。また、目標設定はScopeを複数合算(例:Scope1+2、1+2+3)することも可能です。ただし、Scope1+2についてはSBTの水準を満たすことが必要です。
報告
企業全体の温室効果ガス排出量を毎年開示する必要があります。
再計算
少なくとも5年ごとに目標の見直しが必要です。
SBT加盟までの道のり
SBTを申請するまでの過程を説明します。
Commitment Letterの提出(任意)
2年以内にCommitment Letter(SBTに加盟する宣言)を事務局に提出します。この際、企業情報・連絡先・日付・場所・署名(誰でも可能)を記載します。
目標設定をし、認定を申請
毎年2.5%以上の温室効果ガス削減を目安として、自社の5年~15年先の目標を設定し、SBT認定を申請します。申請は、Target Submission Form(目標の妥当確認や基本情報、削減目標など7項目)を事務局に提出します。
目標の妥当確認で受けられるサービス
目標の妥当性を確認する際に、SBT事務局のエキスパートから、最大60分のフィードバックを受けることが可能です。
認定されたあとは…
SBT認定がされたあと、やるべきことを説明します。
年に1回、進捗状況を開示
毎年、温室効果ガスの排出量や削減量、また対策の進捗状況を事務局に報告し、情報を開示します。
定期的な目標の妥当確認
自社や社会に大きな変化が生じた場合は、状況に合わせて目標を再設定する必要があります。特に変化がない場合でも、少なくとも5年に1度は再設定することが求められています。
SBT加盟のメリット
SBTに加盟することで得ることができるメリットを3つ紹介します。
企業価値UPにつながる
SBTは日本だけでなく世界でも通用するイニシアチブであり、SBTに加盟することは社会に対しグローバルに環境にコミットした企業だとアピールできるようになります。また、社会全体の環境意識が高まりESG投資も浸透している中で、温室効果ガスの削減に取り組む企業は、社会からの評価や信頼が高まっています。
ESG投資とは
まずESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の頭文字を取った言葉であり、企業が長期的に発展し続けるための戦略的な企業経営のことを指します。
そしてESG投資とは、そのESGによって投資の優先順位を決めることです。投資家は、ESGの取り組みからその企業の将来性や持続性を判断し、投資先を判断します。
環境活動に参加できる
深刻化している地球温暖化は自然災害だけでなく、気候変動や生物の絶滅など、さまざまな問題を引き起こしています。SBTを達成することで地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出が抑えられるため、環境活動に大きく貢献することになります。
コスト削減
電力を化石燃料から再生可能エネルギーに転換することも、SBTの取り組みの1つになります。再生可能エネルギーへの転換は電力コストの削減にもつながるため、注目を浴びています。
SBT加盟のハードル
この章では、SBTに加盟する上でのデメリットを紹介します。
資金
SBTへの取り組みは、長期的な視野で見ればコストを削減できるものの、SBT設定にともなう設備導入のための資金が必須となります。見切り発車ではなく、十分な準備や見通しを立ててからSBTを導入することが必要です。
温室効果ガス削減が不利な会社
電力会社を筆頭に、どうしても温室効果ガス排出量が多くなってしまう会社が存在します。そういった会社は成長率を重視するとどうしても温室効果ガス排出が増えてしまうため、SBTに加盟し目標を設定しても、達成することが困難になります。このように、温室効果ガス削減が不利な会社も加盟し目標達成してもらえるよう、SBTに柔軟な対応が求められています。
ほかの国際イニシアチブとの比較
SBTは国際イニシアチブの1つであり、近年急速に企業間で広がっています。それにともない、頻繁にSBTと比較される国際イニシアチブに「RE100」と「CDP」があります。
RE100とは
「RE100」とは、Renewable Energy 100%の略であり、企業の消費電力をすべて再生可能エネルギーで賄おうとする取り組みです。加盟している企業は1年に1度、使用電力を100%再生可能エネルギーにするための具体的な活動報告書を事務局に提出する必要があります。2018年には環境省も、公的機関として世界で初めてRE100に参加し、注目を集めました。
CDPとは
「CDP」とは、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の略であり、世界中の企業に対して温室効果ガスの排出量や気候変動への戦略の公表を求め、機関投資家向けに開示するイニシアチブのことを指します。これは、機関投資家が投資を行う際に、環境への取り組みを考慮して企業を選ぶようにするため働きです。
2000年に発足し、ロンドンに本部を構える国際的な非営利団体です。CDPは世界規模の情報を収集しており、ESG評価機関としても高く評価されています。
SBT・RE100・CDPのおおまかな違い
SBT:科学的根拠に基づいた、温室効果ガス削減目標を立てる取り組み
RE100:企業の電力をすべて再生可能エネルギーに転換する取り組み
CDP:温室効果ガス排出量や気候変動のための働きの情報開示を求める取り組み
まとめ|SBTに加盟し企業価値のUP
加速する地球温暖化に歯止めをかけるために企業単位で行動を起こすことは、義務になってきているように感じます。環境省のデータによると、2021年3月19日現在、SBTに加盟している企業は世界で1,274社あり、日本国内だけでも93社あります。この数は年々増え続けており、SBTをはじめとした国際イニシアチブの活動は浸透しつつあります。環境活動にコミットできるだけでなく、自社の企業価値の向上やコストの削減も見込めるため、SBT加盟は企業の発展の大きな手助けになります。ぜひ加盟を検討してみてください。