Scope3 業種別に企業の取り組みを解説!
Scope3とは、GHGプロトコル(※1)という国際イニシアチブが定めた、サプライチェーン排出量(※2)計測のための基準の1つです。そもそもScopeとは、温室効果ガスの排出量を測定する際の範囲を指したものになります。いきなり自社が温室効果ガスをどれだけ出しているか測れと言われても、どこまでの範囲を計測すれば良いのか分かりません。そこで、温室効果ガスを排出する場面を、3つのScopeに分けているのです。
その中でScope3は、自社による直接的な排出を指すScope1と他社が供給した熱や電気などの使用による排出を指すScope2以外の排出を指します。例えば、販売した商品の使用による排出や、材料の輸送による排出などがあり、全部で15のカテゴリーに分かれています。Scope1とScope2、Scope3の概要に関しては、下記の記事をご参照ください。
※1 GHGプロトコルとは
GHGプロトコルとは、国際イニシアチブです。Scopeの考え方を考案し、サプライチェーン排出量を計測するために世界中で広く用いられています。
※2 サプライチェーン排出量とは
サプライチェーン排出量とは、自社製品の製造から廃棄まですべての場面における温室効果ガスの排出量のことです。Scope1とScope2、Scope3の3つに分類されています。
以下、業種別に具体的な企業の取り組みを紹介していきます。
セメント製造業
製造過程で多くの温室効果ガスを排出するセメント業界。ゼネコンや建築業者の間でCO2排出量の少ないコンクリートの需要が増している今、他の業界に比べても、サプライチェーン排出量削減の取組が進んでいます。
會澤高圧コンクリート
會澤高圧コンクリートは、苫小牧に本社を構える1935年創業のセメント製造会社です。同社は2021年、創業100年を迎える2035年までにサプライチェーン排出量ゼロを達成する目標、「netzero2035」を発表しています。建設現場へのセメント輸送などのScope3の排出にも注目しており、上流過程から下級過程にいたるまですべての場面での温室効果ガス排出量計測・削減を目指しているところです。
参考:netzero2035 | 脱炭素・自己治癒コンクリート | 札幌市
太平洋セメントグループ
太平洋セメントグループは、1998年に設立された国内最大のセメントメーカーです。同社は「カーボンニュートラル戦略2050」と称した環境問題に関する計画を掲げ、SDGsに力を入れています。セメントの輸送や原料調達といったScope3の排出量を削減するために、AI配船・自動配車の導入による最適物流体制の実現やEVトラック、環境対応船の導入に取り組んでいるところです。さらに、CO2吸収源を生み出す活動として、石灰山の緑化や藻場形成、干潟の改善もおこなっています。
参考:太平洋セメントグループカーボンニュートラル戦略2050
小売業
続いて、小売業における各企業の取り組みをみていきます。
株式会社丸井グループ
株式会社丸井グループは、ファッションビル丸井やエポスカードなどを傘下に持つ、持ち株会社です。丸井グループでは、2014年3月期からScope3の算定を始めました。2030年までの中期目標として、Scope3を35%削減することを掲げています。また、信頼性向上のため、外部の第三者である一般財団法人日本品質保証機構(JQA)より、Scope3での温室効果ガス排出量の検証を受けています。
参考:https://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/theme03/environment_01.html
イオン株式会社
イオン株式会社では、事業の過程で発生する温室効果ガスを総量でゼロにする取り組みを進めています。Scope3を把握し開示する動きが世界的に強まっていることから、2021年よりScope3の管理・削減を本格的に開始しました。Scope3の15カテゴリーのうち、イオンではカテゴリー1「購入した製品・サービス」が約半分を占めています。そこで、自社ブランドのトップバリュやH&BCの主な製造委託先に対して、「気候変動への取り組みに関するアンケート」を実施し、各社の気候関連課題への方針や取り組み状況、またイオンへの要望などをヒアリングすることでScope3排出量の管理・削減を行っています。
参考:https://www.aeon.info/wp-content/uploads/news/pdf/2021/07/210720R_1_1.pdf
物流業
物流業は、新型コロナウイルスの影響で需要が拡大した業種ですが、どのような取り組みを行っているのでしょうか。この章では、物流業における各企業の取り組みをみていきます。
株式会社商船三井
株式会社商船三井は、日本の大手海運会社です。2021年6月に発表した「商船三井グループ 環境ビジョン2.1」の中で、2050年までにネットゼロを達成するための中長期目標や、その達成に向けた具体的な対応策を示しました。これまでネットゼロ目標の対象はScope1のみとしていましたが、対象範囲をScope2とScope3にまで拡大することが決まりました。また、CO2排出量データの透明性を高めるため、SGSジャパン(株)による第三者検証を受けています。第三者検証で見つかった課題を洗い出し、Scope3を含めたCO2排出量のさらなる削減が期待されています。
参考:https://mol.disclosure.site/ja/themes/226
佐川急便株式会社
佐川急便株式会社は、物流業界でいち早くScope3を開示し、サプライチェーン全体でのCO2排出量の把握・管理を行うことで環境負荷の低減に取り組んできた企業です。モーダルシフトの推進や物流の効率化などを進めることで、カテゴリ4「輸送・配送(上流)」・カテゴリ9「輸送・配送(下流)」の排出量削減に成功しました。モーダルシフトとは、貨物輸送をトラックなど自動車ではなく、環境負荷の少ない鉄道や船舶の利用へと転換することを指します。フェリーを利用した海上輸送を実現したことで、2020年度には東京湾から苅田港で約361トン、横須賀港から新門司港では2か月間で約372トンの温室効果ガス削減に成功しました。
参考:https://www.sagawa-exp.co.jp/sustainability/data.html
建築業
最後に、オリンピックによる需要増が見込まれたものの、新型コロナウィルスの影響を大きく受けた建築業における各企業の取り組みをみていきましょう。
戸田建設株式会社
戸田建設株式会社は、建設業界のなかでも早い段階から、よりよい環境作りを実現してきた企業です。1994年に、独自の「戸田建設地球環境憲章」を制定したことを皮切りに、1999年ISO14001を取得し、2000年には廃棄物ゼロエミッションを達成するなど積極的に活動しています。また、2010年にエコ・ファースト企業に認定された後にも、2017 年に日本の建設業界で初めてとなる、SBT の認定を取得しています。
Scope3への取り組みとしては、ZEB(ゼブ)の実現によるScope3にあてはまる温室効果ガス排出量の削減があげられます。ZEBとは、Net Zero Energy Building を略した言葉です。建物内では人が活動するため、使用するエネルギーを完全に0にすることは不可能です。しかし、使用量を減らす省エネと、再生可能エネルギーなどを使ってエネルギーを生み出す創エネを組み合わせることによって、実質ゼロを達成することができます。ZEBでは、このような取り組みがおこなわれます。近年、ZEBの需要が高まっているので、技術開発をおこないZEBを増加させていくことで、環境配慮をおこなっていこうとしています。
エコワークス株式会社
エコワークス株式会社は、設立以来、人と地球にやさしい環境建築に取り組みつづけている企業です。環境省が出している、「中小企業向けSBT・再エネ100%目標設定支援事業」を通して、温室効果ガス排出量やScope1,2,3を算出しています。また、Scope3のカテゴリ11にあてはまる、ZEH(ゼッチ)、LCCM住宅販売について、中長期目標を掲げています。
※ZEHとは?
Net Zero Energy Houseを略した言葉です。壁の断熱性を上げ、効率のよいシステムを組み込んだり、再生可能エネルギーを導入したりして、省エネと創エネを実現した住宅のことをいいます。断熱と省エネによって、20%以上の一次エネルギー消費量を削減すること、新たにエネルギーを生み出す創エネによって、実質100%以上消費量を削減することが条件となります。
※LCCM住宅とは?
Life Cycle Carbon Minusを略した言葉です。建設の最中や、住宅として使われている時、使われなくなり取り壊される時にも、温室効果ガスの排出が最小限に抑えられた住宅のことを言います。他にも、太陽光発電を始めとする、再生可能エネルギーを利用して、最小限とはいえ、やむなく排出されてしまった温室効果ガスを実質マイナスにすることも目指されます。
ZEH率に関しては、2017年度に104%を達成しています。国は2030年度に新築住宅の平均が、ZEHの基準を満たすことを目標としているため、既にその目標達成に大幅な貢献をしているといえます。
LCCM住宅についても、2025年に平均LCCM100%を達成することを目標としています。
年々増えている各業界でのScope3の削減活動
Scope1やScope2だけではなく、近年はScope3の重要性も唱えられ、各業界で削減の取り組みが急がれています。ほかの2つと比べ削減対象範囲が広くなるため敬遠されがちですが、2050年までにネットゼロを達成するためには欠かすことのできない取り組みです。積極的に削減に取り組み、自社のCSV経営にも生かしていきましょう。