脱炭素経営とは?中小企業が取り組むメリットと成功するポイント、事例を解説

bannar

パリ協定や2050年カーボンニュートラルを受けて、気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)や脱炭素社会の実現に向けた目標設定(SBT、RE100)を通じて「脱炭素経営」に取り組む企業が増えています。脱炭素経営とは、ESG投資などのトレンドにより、企業価値を高め、ビジネスチャンス創出にも繋がります。この記事では「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を参考に、中小企業が脱炭素経営を成功させるためのポイントとメリット、事例について解説します。

目次

脱炭素経営とは

脱炭素経営とは、企業ができる限り二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないことを重視する経営方針のことです。この脱炭素経営は、パリ協定で気候変動防止に関する国際的な目標が定められたことをきっかけに、近年広まりつつあります。

パリ協定では、産業革命後の気温上昇を+1.5℃までに抑えるという国際的な目標が定められました。これを受けて日本も、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、いわゆるネットゼロの実現を宣言しています。日本政府は、国内全体の温室効果ガス排出量を大幅に減らすためには企業の協力が必要であると考え、国内企業に積極的な環境保全の取り組みを求めているところです。

画像引用:20211231_ 統合版_脱炭素経営の状況 (env.go.jp)

RE100(Renewable Energy 100%)や SBT(Science Based Targets)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)といった国際イニシアチブに参加することで、自社の脱炭素経営が実際に効果を発揮していることをアピールすることができます。

 脱炭素経営のメリット

脱炭素経営は、たしかに環境にとっては好ましくても会社の事業には負担をかけるだけなのでは、と考える方もいるのではないでしょうか。しかし実際には、企業の成長に繋がるような多くのメリットがあります。本項では、優位性の構築、光熱費・燃料費の低減、知名度・認知度・投資価値の向上、社員の労働意欲向上・人材獲得力の強化の4点について解説していきます。

優位性の構築

まず挙げるのは、他社に対する優位性の構築です。脱炭素経営をおこなうことで、自社の競争力向上、受注や売上の拡大が期待されます。

背景として挙げられるのは、供給業者に温室効果ガスの排出量削減を求める企業の増加です。例えば、Apple社ではサプライヤーに対して再生可能エネルギーを導入するよう働きかけています。脱炭素経営を実施することで、自社製品がクリーンな製品として他社や消費者に選ばれやすくなるのです。

光熱費・燃料費の低減

脱炭素経営のプロセスには、エネルギー効率の良い設備の導入も含まれます。このような設備の更新によって、エネルギーの消費量が少なくなり、光熱費・燃料費の低減に繋がります。

知名度・認知度・投資価値の向上(ESG投資)

省エネに取り組み、温室効果ガスの排出量を減らした、また再生可能エネルギーの導入を進めた企業は、国からの表彰やメディアでの紹介などによって知名度や認知度が上がります。このことによって、投資する価値のある企業であると投資家に認められ、環境や社会に配慮している企業に優先的に融資する「ESG投資」に繋がります。

社員の労働意欲向上・人材獲得力の強化

気候変動に対して取り組む姿勢を示すことによって、社員の共感や信頼を得られ、社員のモチベーションの向上に繋がります。また、国際イニシアチブへの参加などによって良い企業イメージが定着すると、環境問題や社会貢献に関心の高い人材の獲得に繋がるでしょう。

脱炭素経営を成功させるポイント

脱炭素経営を成功させるには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。本項では、脱炭素経営を始める際に抑えておくべきポイントを3つまとめました。

エネルギー消費量の見直しと削減

最初のポイントは、エネルギー消費量の見直しと削減です。温室効果ガスの排出量を削減するためには、再生可能エネルギーの導入や設備投資の前に、無駄な電力消費を削減することが重要です。照明や空調機は、オフィスの温室効果ガス排出源の中で最も大きな割合を占めます。まずは、蛍光灯をLEDに替える、エネルギー効率の良い空調機を導入するといったことから実践しましょう。エネルギー消費量の見直しは、電気代の削減にも繋がります。

再生可能エネルギーの導入

次のポイントは、再生可能エネルギーの導入です。完全に温室効果ガスの排出量をゼロにするには、すべての使用電力を再生可能エネルギーに替えることが必要です。再エネ導入に際しては、PPAモデルの選択や補助金によって費用を抑えることもできます。また、再エネ電力証書(グリーン電力証書、Jクレジット、非化石証書)と呼ばれる証書を購入することで、再エネを用いているとみなすことも可能です。

電化の推進(熱よりも電力を使用)

最後に、電化の推進です。通勤用の自家用車や原料を運ぶトラックなど、自動車の使用によるガソリンの消費も、温室効果ガスの大きな排出源になります。電気自動車や水素を燃料とする燃料電池車への買い替えを検討しましょう。

脱炭素経営の取り組み事例5選

実際に、国内企業はどのような脱炭素経営をおこなっているのでしょうか。成功例を5つご紹介します。

株式会社大川印刷

ポスターやマガジンなどの印刷業に携わる大川印刷は、環境問題に積極的に取り組む企業としても知られています。例えば今年1月には、バナナペーパーを用いたロール紙を開発しました。バナナペーパーとは、通常廃棄されてしまうバナナの茎から作られたバナナ繊維を原料とした紙のことです。廃棄物を用いるため森林保護に繋がり、また化学物質を使用しないので河川の汚染を防ぐこともできます。

さらに同社は、PPA(電力販売契約)モデルを用いた太陽光発電の導入や、印刷事業で排出されるCO2についてJクレジットの購入などによりカーボンオフセットする「CO2ゼロ印刷」も実施しています。

公式ホームページ

>>大川印刷 | » COMPANY PROFILE (ohkawa-inc.co.jp)

山形精密鋳造株式会社

山形精密鋳造株式会社は、1986年創業の鋳物の製造に携わる企業です。

同社は、省エネルギーセンターが実施している省エネ無料診断を受け、国の補助金を活用しながらLED照明やエネルギー効率の良いボイラーなどを導入しました。また、会社全体が一体となって脱炭素経営に取り組むために、月に一度省エネ推進委員会を開催し、省エネのアイデアについて社内で共有しています。

公式ホームページ

>>ロストワックス鋳造のことなら YSC 山形精密鋳造株式会社(山形県長井市) (web-ysc.jp)

中部産商株式会社

中部産商株式会社は、1963年創業の、金属中の不純物を取り除くフィルターや鋳型に流し込む導管を製造する企業です。同社は5年前より、トンネル炉に計測機器を設置し燃焼ガスの量を測定して、焼成温度を最適な温度に調整できるようにしました。これにより、使用ガスを半分近く減らして1000 万円以上の光熱費を節約しています。この活動には、環境負荷の低減や光熱費の節約以外にも、これまで原価割れしていた製品が利益を出せるようになり、生産拡大できるようになったなどのメリットがあります。

公式ホームページ

>>会社情報 | 中部産商株式会社 | 鋳造用耐火物・鋳造用副資材・燃料(ガス) (chubu-sunsho.co.jp)

三和興産株式会社

三和興産は、アスファルト合材の製造・販売、道路建設工事、建築・解体工事、燃料用チップの製造・販売などさまざまな事業を手掛ける企業です。アスファルト合材の製造過程で用いる重油。重機や建機を電気モーターで動くものに替える、LED照明を導入するなどの取り組みをおこなっています。2025 年までに CO2 排出量を 2017 年比 30%削減とする SBT 水準での目標を設定しています。

公式ホームページ

>>会社概要|一宮市での舗装工事、アスファルト合材の製造販売 (sanwakousan.co.jp)

リマテックホールディングス

リマテックホールディングスは、廃油などの廃棄物を用いた再生燃料の製造を主事業とする企業です。同社は、国内でいち早く中小企業版 SBT目標を設定しています。

消費電力量の多い事業所での再生可能エネルギー導入や電気自動車や低燃費車両への買い替えなど、費用とのバランスを見ながら再エネに取り組んでいるところです。

公式ホームページ

>>会社概要 | 企業情報 | リマテックホールディングス (rematec.co.jp)

まとめ|脱炭素経営の取り組みで企業価値向上を

脱炭素経営は、国内企業の事例をお読みいただければ分かる通り、環境保全への貢献のみならず自社事業の費用削減やイメージアップにも繋がります。メリットの多い脱炭素経営、まずはエネルギー消費量の見直しから始めましょう。

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